二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
宝生あやめ
宝生あやめ
novelistID. 18276
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「蒼い太陽」 第一章 目覚める黒翼 (前編)

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「実はね・・・その人物が今度、家族と一緒にこの街へ引越してくるの。そして、その人物には一人娘がいて、こっちの高校を受けることになってるわ。・・・はばたき学園って学校よ。その子の偏差値や内申書の内容からして不合格になるとは思えないわ。・・・ねえ、どう?行ってみたくない?その学校」
意味ありげな笑みを浮かべながら、結城は琉夏に今回、出会って話す核心部分に触れた。どうやらこの女は、琉夏をはばたき学園というところへ行かせたいようだった。その真意がどこにあるのか、琉夏にもわからなかったが、琉夏はその情報を聞くと薄い茶褐色の瞳の奥に冷たい蒼い炎を灯しながら静かにこう答えた。
「うん。行ってみたい。いや・・・行くよ、俺」
言い終えると、琉夏は冷え切ったココアを空腹の胃へ流し込む。どこか決意めいた表情と行動に、結城は満足そうに笑った。
「そう・・・行く気になってくれたのね。じゃあ、お姉さんからこれをプレゼントしちゃう。きっと琉夏くんの役に立つと思うわ」
結城は大きなバッグからA4サイズの茶封筒を取り出すと、琉夏の前に置いた。それほど厚みがあるわけではないその封筒を受け取り、中身を確認しようとすると結城のしなやかな指が開封口を押さえた。
「ここで見ちゃ駄目。これはお家に帰ってからゆっくり見るのよ?その方がきっと、琉夏くんもやる気になると思うから・・・いろんな意味でね」
いたずらっぽく微笑みながら結城に言われ、琉夏はその封筒を自分の傍らへ置いた。外はすでに夕闇へと変わりつつあった。冬の太陽は沈むのが早い。午後五時を少し過ぎたあたりだったが、大通りにはすでに街灯がともり、クリスマスのイルミネーションがチカチカと揺れていた。
「あら、もうこんな時間だったのね。冷めちゃったけどホットケーキ食べちゃいなさい。それから・・・早く家に帰った方がいいわ。夜の繁華街は危ないから」
そうだ。夜になるとまたさっきの奴らが帰ってくるかもしれない。勝てる勝算はあるが、結城の話を聞いてそれどころではなくなった。自分にはやるべきことがある。そう思った琉夏は「うん」と答えて、少し冷えて固くなったホットケーキを口に運んだ。
琉夏が食べ終わり、二人でカフェを出ると、結城が別れ際に言う。外の空気は思った以上に冷たく、すぐに手がかじかむほどだった。
「あ、そうそう。何かあったらここに電話して。私の携帯番号よ。何でも相談に乗るわ」
そう言って結城は、自分の携帯電話の番号を持っていた手帳の端を破り取った紙にペンで書き写し、琉夏の手に握らせた。琉夏がその紙を制服のポケットにしまいこむと、結城は「じゃあ、またね」と言って琉夏の頭をくしゃ、っと撫でると繁華街の中へ消えた。琉夏はしばらく結城の背中を追っていたが、人ごみで見えなくなるとその足を結城とは反対方向に向け、家路へと急いだ。

はばたき市のほぼ中央に立ち並ぶ、官公庁のビル街。片側三車線の道路の中央分離帯には、大きな街路樹が等間隔で並んでいる。その街路樹も冬になり、枝ばかりになった姿がみすぼらしく見える。中央通とあって、車の交通量も多く、時々急かすようなクラクションの音が聞こえる。大きな交差点を右へ曲がり、百メートルほど走ったところに”はばたき警察署”があった。数年前に立替の工事をし、三階建ての真新しいビルとなってそびえていた。目立った事件は起こらないものの、年末ということもあり署内は事故の手続きにやってきた人や、道を尋ねる人、警官に拘束されてどこかへ連れて行かれる酔っ払いなどで署内は朝からごったがえしていた。
「それで?その電話はいつかかってきたんだ?」
警察署に入ってすぐ左側にある階段を軽快な靴音を響かせながら、二人の男が降りてくる。やや急ぎ足で先に降りてきたのは、刑事課に所属する巡査部長の古市悟志。年は三十八歳で身長は百七十五センチに細身の体だが、高校時代は柔道で国体にも出場したほどだった。若干、寝ぼけたような目をしているが、一度捜査に関わるとその目つきは鷹のように鋭くなる。顎の右側に米粒ほどのほくろがあり、自分では気に入っていないが、周囲からはチャームポイントだと言われていた。古市は高校を卒業後、父親の後を継ぐように警察学校へ入学し、地域課、生活安全課を経て、五年前から念願だった刑事課への配属となった。父親も刑事課に所属していたが、五年前に癌を患って他界している。
「えっと・・・最初に対応した深山婦警の記録によると、今日の午前七時三十五分です」
古市の後ろを追うように急ぎ足で駆け下りてきた男は、東条雄人という、古市よりも十若い二十五歳で身長は古市よりもやや低く、それでいて女性にもてそうな甘いマスクが署内の婦警にも評判だ。東条は大学卒業後に入署し、警務課に三年在籍した後、本年度から刑事課へ転属となった、いわゆる”キャリア組”である。若さもバイタリティもあるが、まだまだ大学生気分が抜けないのか、経験不足からなのか、少々間が抜けたところがあるような男だった。東条は手帳をめくりながら古市へ何かを報告しているようだった。報告を聞くと、古市が野太い声で続きをうながす。
「相手は?男か?女か?どんな感じの声だった?」
「はい。・・・電話の相手は中年の男性からで、緊迫したような声だった、と」
相変わらず手帳を見ながら答える東条に、古市は警察署の一階奥にある”資料室”とドアに書かれた部屋に入った。東条も古市の背中をちらりと確認すると、ドアが開いた隙に体をするりと入れる。入ってすぐ左の壁にある電灯のスイッチをパチン、と入れると長い蛍光管が目を覚ましたように何度か点滅して部屋を照らした。資料室というだけあって、鉄製で作られた棚に段ボール箱や分厚いファイルがいくつも並べられている。
「・・・なるほど。で、話の内容が『内部告発』だった、ってわけか」
話しながら古市は、何かを探すように棚にあるファイルのラベルを見たり、段ボール箱の中身を確認しながら歩いていた。
「はい。名前も名乗らず『大内建設が不正を働いているようだから調べてくれ』と・・・。公衆電話からでしたし、話も短かったのでどこからかけたのかはわかりませんが」
「ふむ。自分が何処の誰かバレちゃ話にならんからな。向こうさんもそれぐらい考えてたんだろ」
一通りの内容を報告し終えた東条は、先程から鼠のように動き回る古市が気になっていた。古市はそんな東条にお構いなしといった具合に当然といった回答を述べると、資料室の奥の辺りにある段ボール箱の蓋を開けていた。
「でも、どうなんですかね。緊迫したような声って言っても・・・そんな曖昧な内容、信じちゃっていいんですかね?」
少し怪訝そうな顔をした東条が、古市の背後で突っ立ったまま言うと、古市は東条に目もくれず「お前だったらどうする?」と尋ねた。東条は一瞬、困ったような顔になって考えたが「俺なら・・・」という言葉しか出てこなかった。
「お前が正義感の強い男で、自分の身に危険が及ぶかもしれないとわかっていて・・・それでもなんとかしたいと思ったら、お前はどうする?」
段ボール箱の底を掻き分けながら古市は落ち着いた声でもう一度、東条に尋ねた。東条は決まりきったことを、といった口調で答えた後、驚いた表情になった。