二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ありえねぇ !! 5話目 後編

INDEX|8ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「……俺、あんたとは絶対揉めたくないんすけど。門田さんの人柄は気に入ってるし、沙樹の件ではマジ世話になったから……。でも、俺、どうしてもやらなきゃならない事が二つあって、一つはまぁ、門田さんが言う通り、法螺田とかいうアホを潰す事ですけどね……」
「…黄巾賊を二分しての抗争か?…それともう一つってのは何だ?」


吐かなければ離さないとかいう形相に、紀田は溜息をつく。
ついつい口が滑ったとはいえ、たった一言の失言を、しっかり聞いてくる門田は流石だ。

でも行方不明の杏里の件は、いくら彼でも説明したくない。
腹を割って話すのなら、切り裂き魔事件から順を追っていかなければならないし、杏里の特殊で可哀相な生き方は、彼女の顔を知っている程度の知人になど、勝手に軽々しく話していい内容ではない。
どうやって、この男を煙に巻こう?


溜息を一つつき、視線をそらすと、格好のネタがその先にはあった。
バンの中に、文庫本を開いたままこっちを見ている狩沢がいる。

しかも、視線が絡み合う。
仕方が無い……と、紀田は腹を括った。

どうせ昨日来良総合病院内で、張間美香の馬鹿が紀田のシンパが大勢屯っていた廊下で、『紀田は真正のホモ』だと、盛大に花火をぶちあげてくれやがったのだし。
そのうち彼らの耳に噂話で届くのなら、今このネタを有効に使うのは有りだろう。

そう腹の中で計算を素早く纏めると、彼は門田を置き去りにし、ふらふらと車に近寄り、こんこんと窓をノックした。


「ねぇ狩沢さん。恋人…っつーより、魂の半身とも思える最愛の人が居なくなったとき、残された男が取る行動っつったら、何だと思いますか?」
「え、何? 何? なんであたしに聞く?」

バンのドアからぴょっこり身を乗り出してきた彼女に向い、正臣はくつりと蛇のように微笑んだ。

「俺、狩沢さんに今、抱きしめて欲しくなったから……っすか? 俺今すっげー人恋しいんです。慰めてください」
「え、何であたしが紀田っちを!! そりゃ、沙樹ちゃんの件は残念だったけど、もう一年も前の話じゃん……」

「俺、すんげー寂しいんです。人のぬくもりがマジ恋しくて。でも野郎の胸板なんて、ぜってぇーやだから、狩沢さんがぎゅっしてください」
「はぁ、訳わかんない。イヤイヤ、理由無いもん」

ふるふると首と手のひらを、横に振りたくって拒絶する彼女を見上げ、正臣はいよいよ爆弾を投下した。


「俺の魂の半身は……、俺が生まれて16年間、ずっと恋焦がれてきたのは……、竜ヶ峰帝人っす………」
「え?」
途端、狩沢の目がかっと開かれた。

「愛して愛して愛して愛して、絶対叶わないと思って、ずっと親友を演じてきて。長すぎた片思いに疲れて泣いて、酒を大量にかっくらい、酔っ払ったフリして縋って、帝人の優しさとお人よしに付け込んで騙して強姦して……、あいつ、メッチャお人よしのアホだから、そんな卑怯な俺を、散々悩んで悩みまくった末、とうとう受け入れて愛してくれた……」


「今日二つ目……、本物………のBL………だぁ♪」
「嫌々、それ以前に問題発言だろ!! 紀田、今強姦したって言った…「うるさい邪魔すんな、聞こえないでしょ」…げふっ」

いつの間にか狩沢の真横にいた渡草は、浮かれ顔が吹っ飛んだ狩沢の肘鉄をモロに腹に喰らい、その場にずるずると撃沈する。
暴走する狩沢を止めるストッパー役の遊馬崎は、今仕事の打ち合わせで抜けているから、やりたい放題だ。

「やっと……両想いの恋人になれたのに……。法螺田の馬鹿が帝人の処刑宣言出しやがりやがって。おかげであいつ、ダンプに蹴り入れられて轢かれて、今、意識不明の重体っす……。今は命に別状ないけど、頭を強く打っちまったから……、医者が何時目覚めるかわからねぇって。恋しくて恋しくて恋しくて、やっと手に入れたそんな大事な恋人を傷つけられて、俺……、どうすりゃいいんですかね。この滾るような憎しみの捌け口は? どうすりゃ無くなるんっすか?」


瞬間、狩沢は真顔で両腕を伸ばしてきた。
そのままぎゅうっと、正臣の頭を、己の豊満な胸に抱きしめる。



「俺、誓って法螺田を殺りますよ。何の落ち度もねぇ帝人が傷つけられた事、あいつの痛み、俺の涙と嘆きと憎しみを、全部あいつにぶつけてやらなきゃ気が済まない」


「紀田? 気持ちは……」
「判るんすか門田さん? 俺の気持ち? 俺自身でも持て余している今の俺を、他人のあんたが判るっていうんすか? あんたはエスパー? それとも神?  だったら俺に帝人を返してください。もう俺には何も残っていない。俺の両親はとっくに俺を捨てて、それぞれの家庭で幸せを満喫している。俺には帝人しかいなかったんだ。そんな俺の最愛の恋人を、俺の魂の半身を、大切な家族を、俺の唯一心休まる居場所を、神だったら今すぐ返してください!!」

門田は口を噤んだ。
言える訳がなかった。
静かに思えた正臣の内面に潜む激情は、目に見えないだけで、マグマのように滾っていて、噴出す出口を求めて渦巻いている。
無理に我慢して押さえつければきっと、正臣の精神が崩壊してしまう。

ぎゅうぎゅうに紀田を抱きしめている狩沢も、いつもの飄々さが吹っ飛び、しかもじわりと涙ぐんでいる。

「わ、わたしはもう、紀田っちとみかプーの味方だから。お姉さん、絶対何があっても敵にならないから。世間がどんな色眼鏡で見たって、わたしは二人を祝福するし、みかプーの意識は回復するって信じてる。
紀田っちが法螺田をぶちのめしたいのなら、止めないよ。
でも、でもね……、殺人だけは駄目だからね。いい? それだけはきっと、みかプーが悲しむからやっちゃ駄目。紀田っちだって、少年院でみかプーが起きるのを待ちたくないでしょ? ねぇドタチン。渡草っちと遊馬っちも含めて、私達皆、今から紀田っち応援団の一員って事でいいでしょ?」

このワゴン組みのリーダーは門田なのだから。
紀田をしっかり抱きしめながら、縋るように狩沢が彼の判断を仰ぐ。

元々法螺田の件は静雄にも釘さした通り、過去の亡霊……ブルースクウェアの件が絡んでないか調べるのが、今の門田の役割だ。
恋人を害された今の紀田に暴走されても堪らないし、これでもし竜ヶ峰が死んでしまえば、昨年の三ヶ島沙樹の二の舞だ。


「……判った。俺も決して、お前の敵にはならない。だから、何かあったら、絶対俺を頼って勝手に暴走するんじゃねーぞ。お前はまだ16歳の子供なんだ。この世の中、大人の力を頼らなけりゃならに事って、まだまだ沢山あるんだから。自分の年齢を自覚して、俺を頼れ。な?」

「……はい……」

狩沢に抱きしめられながら、紀田は今度こそ素直に頷いた。



★☆★☆★



同日17時45分。
セルティは折原臨也のマンションに到着し、最上階の部屋の呼び鈴を鳴らした。