angel lamp8
Side:
トランクに畳んだ衣類を積め、蓋を閉める。
それほど数はないので、トランク一つで十分間に合った。
立ち上がろうとして伸ばした手が宙を切り、そこで我に返る。
もう、彼はいないんだ。
自由の利かない右足をかばいながら、そろそろと立ち上がった。
あの部屋も、片づけておかないと。
気が進まないまま、部屋を出る。
彼の部屋に入るとき、ノックをしようとして手を止めた。
「・・・・・・・・・」
左手を下ろして、そっと扉を開ける。
きちんと片づけられた部屋に入り、風を通すために窓を開けた。
ふわりとカーテンが膨らみ、頬をなでて翻る。
ベッドに腰掛けると、彼の使っていた枕を抱きしめた。
「・・・カイト」
今頃は、新しいマスターの元にいるだろうか。
カイトの声を、気に入ってくれるといいのだけれど。
今すぐ、その場に駆けつけて伝えたい。
気配りの出来る、とても優しい子です。
歌が得意で、大好きで、あなたの曲を、誰よりも大切に歌いますから。
だから、どうか、幸せにしてあげて下さい。
私の分まで。
私が出来なかった分まで。
「・・・カイト」
どうか、どうか、幸せに。
いきなり後ろから抱きしめられて、息が止まりそうになる。
声をあげようとした時、耳元で名前を呼ばれた。
聞き覚えのあるその声は、二度と聞けないはずなのに。
「・・・どうして?」
やっとの思いで言葉にすると、回された腕に力が込められる。
「そばに、置いてください。あなたのそばに、いさせてください」
掠れたその声に、涙が出そうだった。
そろそろと顔を動かすと、色の抜けた髪が目に入る。
「・・・カイト」
もう一度その名前を呼ぶと、彼はそっと頷いて、
「僕が、あなたを守ります」
終わり
作品名:angel lamp8 作家名:シャオ