harvest festival?
そう言って「ちょっといい。いや、すごくいい」と一人照れたり喜んだりする世良を見て堺は大きなため息を吐いた。
「人を襲うのは狼男も同じだろ」
堺の小さなつぶやきは浮かれる世良の耳には届いていないようだった。
堺は隣に立つ世良を観察する。一応、耳としっぽがついてそれらしく見せているが、狼と言うよりも犬に見える。迫力が欠ける。
仮装で浮かれる子犬のようなものだ、と思いながら見下ろした。
世良も堺をじっと見上げる。
目を伏せて自分を見つめている堺は憂いを含んで気だるげに見える。いつもと違うのは黒づくめの衣装のせいか、それとも珍しく前髪を上げた髪型のせいだろうか。普段にも増して世良は目が離せずドキドキしながら堺を見つめた。
「世良」
「はい」
「お手」
堺がさっと右手を出すと世良はさっとためらいもせずにちょこんと自分の手を載せた。
「うーん。犬だな」
「あれれ」
「犬男」
「犬じゃないっス」
「おかわり」
「はい」
世良はためらいもせず、今度はもう片方の手を堺の掌に載せた。
「ほら、犬だ」
「あっ。しまった」
思わず世良は頭を抱え込んだ。
堺は一つため息を吐くとマントを翻し落ち込む世良を置いて去って行った。
「世良って本当に犬だよな」
「犬じゃないっス」
一部始終を見ていた丹波に再びそう言われて心なしか世良の頭についている耳はしょんぼりと垂れ下がっているようだった。せっかくつけたしっぽも元気なくうなだれているように見えるた。
「俺、犬じゃないっスよ」
世良のつぶやきは秋風に運ばれて誰の耳にも届かなかった。
【了】
作品名:harvest festival? 作家名:すずき さや