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すずき さや
すずき さや
novelistID. 2901
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harvest festival?

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「堺さんまで笑うことないじゃないですか」
「笑ってない」
 マントを引っ張る夏木の手を払うと「お前のその姿は何だ」と思わず訊ねる。
「お......俺は金星人...です。っつか金星人って何ですかねぇ......はぁ」
 全身を銀色のタイツに身を包みスプレーで髪を金色に染め上げた夏木はそう言うと遠い目をした。
 堺は気の毒に、と心の中で呟くと夏木とジーノから視線をそらす。所在無げに立つ椿と視線が合った。
「あ。あのっ。堺さんもカッコイイっス!」
 頬を赤くした椿がしどろもどろに自分の姿をほめたのでため息が出た。
「ほめなくていいから」
「でも、似合っていますよ。そのドラキュラ伯爵」
「似合っても嬉しくない」
「スミマセン」
「謝らなくてもいい」
 頭を下げる椿を見て何度吐いたか数えきれないほどのため息を大きく吐いた。鏡を見ながら堺は後ろになでつけられた前髪をそっと押さえる。
 肩にずっしりとのしかかるようにマントが重い。思いきりウエストを締め上げるサッシュベルトが邪魔だ。そして、滅多に前髪を上げないので落ち着かない。
 堺はもう一度だけ鏡で自分の姿を確認して肩を落とした。
「額が広くなったことにショックを受けているのか」
気がつくと背後で丹波がニヤニヤしながら立っていた。
「違う。断じて違う」
「老化は自覚した方がいい。三十を過ぎると顔が伸びるんだ」
 堺の言葉を無視して丹波はにやにや笑いを続けた。
「だったらお前も同じだろ」
「俺は渋さで保っているから良いんだよ」
 丹波は堺の反論を涼しい顔をして受け流した。
「ところで。お前はなんの恰好をしている」
「坂本竜馬っ」
 丹波はそう言って胸を張って笑う。
「日本の夜明けは近いぜよ」
 そう言って丹波は鏡の前で有名な写真と同じポーズを決めた。
「ばか」
 仮装をした時点で疲れきっている堺を後目に丹波は元気が良い。
「俺、似合っちゃってる?ねぇ、椿。似合う?」
 顎に手をやりながら鏡の前でポーズをとる丹波に椿はパチパチと拍手をする。
「似合います」
「だろー」
「はい」
 椿は素直で気が良いのだな、と堺は思った。
「ハロウィンと関係ない」
「でも、くじの中にあったんだよ」
「もう、なんでもありなんだな」
「選手全員と松さんの分だけネタを考えるから、ネタ切れも起こすだろう」
「そういうものか」
 二人はお互いの姿を見て「似合わないなぁ」と言い合った。
 椿が小声で「二人とも似合いますよ」と呟くと堺は首を横に振り、丹波は嬉しそうにそうだろ、と首を縦に振った。
 
「チィーッス」
 そこへ大きな声とともに世良が現れた。
 世良は頭に三角形の動物の耳を付け、ボロボロの服を身にまとっている。
「堺さーん。チィーッス」
 にこにこと笑いながら上機嫌で堺の隣に立つと見てくださいと言わんばかりにくるりと一周回った。
「何それ」
「狼男っス」
 そう言って「尻尾も付けたっス」と笑いながら尻尾を見せてくれた。
「ふーん」
「へぇ」
 堺と丹波はどうにも迫力の欠ける世良の姿を見て、狼というより犬。そして、遠くにいる気持ちの悪い亀井のシンデレラと交換してみてはどうだろうか、と思ってしまった。
「あれれ」
 反応の薄い二人を見て世良は首をかしげる。
「まぁまぁだな」
「うんうん」
 世良の頭を黙って撫でる堺と、うんうんとうなずく丹波に世良は不思議そうな顔をした。
「そろそろ人が来る時間かな?」
 話題を変えるように腕時計の時間を見る丹波を見て堺は、坂本竜馬は腕時計をするのか、と見当違いの感想を覚えた。
「堺さん、一緒に歩きましょう」
 腕を組みそうな勢いで世良が浮かれているので堺は思わず眉を寄せて嫌そうな顔をする。
「やだよ」
「そうは言わずに一緒に歩きましょう」
 嫌がる堺を見てもお構いなしに世良は手を取ると意気揚々と歩き出した。
「犬男とドラキュラか」
 肩を並べて歩く丹波はうーん、とうなりながらその後ろを歩いた。
「犬じゃないっス。狼っス」
「悪かった。前言撤回する」
 くるりと振り返った世良はむっとし顔をして言い返す。意外と地獄耳なんだな。丹波は謝りながらそんなことを考えた。
 
 
 三人が廊下に出るとヒラヒラしたものが目の前をさえぎっている。
 シンデレラのドレスを着た亀井が立ち往生していた。
「わぁ。亀井、どうした」
 世良は驚きの声を上げると亀井はこてこての化粧を施された顔をこちらに向けた。
「俺、歩けないです」
 泣き出しそうな亀井を見て三人は自分のくじ運の良さをしみじみと感じた。
「見ていないで助けてくださいよ」
 無言で見つめられていた亀井は助けを求めるが丹波と世良はどうすればいいのか分からず、ただ目の前のでっかいシンデレラを見つめていた。
 堺はすっと一歩近付くと亀井に声をかける。
「裾を持ち上げて歩くんだ。亀井」
 助言を与える堺を見て丹波と世良は顔を見合わせた。
「そうなんですか」
「そうじゃないと歩けないだろ。ほら持て」
「はい」
 亀井は、おろおろしながら堺の助言通りにドレスの裾をつまんだ。
 体の大きなシンデレラの亀井と、黒づくめの堺の取り合わせは異様に見える。
 それよりも何故か身のこなしを教える堺が堂に入っているのを不思議そうに丹波と世良は眺めていた。
「ん。どうした」
 二人の視線に気づいて堺は振り返る。
「いやいや」
「なんでもないっスよ」
 二人は実は女装の経験があるかもしれない、と思ったが口に出さなかった。
 どんなに堺が教えてもドレスの裾を踏みつけて転びそうな亀井を見て三人はドレスの裾を持ち上げて足元を確保してやりながらグランドへ降り立った。
 おぼつかない足取りの亀井の足元を見ると、どこに売っているのか首をひねりたくなるようなハイヒールを履いていた。
「それじゃ歩けないな」
「立つのがやっとです」
 丹波のつぶやきに亀井は情けない声を上げた。
 おっかなびっくりの足取りの亀井を連れ三人がやっとの思いでグランドへ下りると有里がにこにことした笑顔で近づいてくる。
「お疲れ様です」
 仮装をした時点で疲れきっている人間と、盛り上がっている人間がいるのを露知らずに有里はそれぞれの手に籠を手渡す。籠にはお菓子が詰められていた。
 籠を受け取りながら周囲を見渡すと一体何の扮装をしているのか説明につかない者までいる。
 丹波と堺は籠を手にしながらうーん、とうなってしまった。
「あれは何だろな、堺」
「とりあえず。俺たちは説明がつく分だけましだな」
「それにしても金がかかっているなぁ」
 丹波はこの衣装を誰が用意したのかという疑問が脳裏に過ったが、一人浮かない顔をしている後藤を見てなんとなく察しがついた。


「ドラキュラ似合ってるっスよ、堺さん」
 世良が会話に割って入って来て堺は露骨にいやな顔をした。
「襲われたいかも」
 冗談めかしに言われてますます嫌な顔をする堺を見て丹波は大笑いをした。
「本当にハマっているっスね」
「言われると言われた分だけ凹む」
 嫌がる堺を見ても構わず世良は目をキラキラさせながら見上げる。
「堺さんになら噛まれてもいいかも。みたいな」
作品名:harvest festival? 作家名:すずき さや