紡がれし絆
「ふぁ~あ!」
ねむい!ものすごく!なんかひっくり返る音がしたので、あわてて来てみると、バイトの新人と琥流栖がひっくり返って小麦と卵だらけになっていたのだ。
そうなるとは思っていたが予想外に早かったのでお湯がまだあったまっていなかった。なので、楽太郎は無理やり魔法を使いお湯の温度を上げたのだ。そのせいか疲れてとても眠い。
「あ~ぁ、疲れたし、俺も風呂には~いろ・・・・。」
そう思って浴室に来た瞬間。
ガラッ
扉が自動で開いた。いや、中に入っていた人が開けたのだ。
「うおっ!?」
「あ、ごめんなさい楽さん!それじゃあ、グリスさん、行きますね!」
「はい!」
新しいこの店の営業服に身を包んだグリスとともに琥流栖はあわてて走りながら厨房に向かっていった。
「・・・・・・・。」
ん?いっしょに?お風呂大きいけど一応異性だよね?なんで一緒に出て来てんだよ。
「はっ、まさか・・・・・・・・・・!!!!!」
偶然手違いで琥流栖とグリスが一緒の風呂に入ってしまっていて、なにかあったのでは!?グリスという新人だってもう25の見た限り健全な男だ。もしかして、琥流栖と睦みあっていたんじゃ・・・・・・・・っ!!!!
『あ、だめです・・・・・わたしは・・・・・・・!!!』
『だめですよ~琥流栖ちゃん・・・・嘘なんてついちゃ…体はこんなに正直ですよ~・・・?』
『あ、だめ・・・・・・!!そこは・・・・・ひやぁぁっ・・・・・・・』
ま、まさか・・・・こんなセリフが交わされながら・・・・・ながら・・・・・!
うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
ひときわ大きい叫びが店に広がった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「何・・・・・・今の・・・・・・!?」
琥流栖は少しおびえた様子でその声を聞いた。
「なんなんでしょう・・・・・こわいです・・・・・。」
グリスも少し怖がっている。そのころ、グリスたちはエプロンを着用し、急いで苺のロールケーキと、茶碗蒸し、及びその付け合わせのツユクサのお浸し、スベリヒユの味噌汁、屑の芽のてんぷらを大急ぎで作っていた。
本日は新鮮な卵が入ってきたので、爪太郎の気分で「今日は茶わん蒸し定食ね~」という地獄の宣告がなされたのだった。
茶碗蒸しはだしの加減と蒸し加減が難しい。神経と時間の両方を使う、まさにつくる側にとっては地獄の逸品である。
「はいはい、怖がってる暇があったら、作る作る!あたしも手伝ってんだから!」
爪太郎は大声で言い、茶碗蒸しの種を切っている。中身は今は夏なのでニンジン、鳥肉、枝豆、シイタケといったところだ。
「ロールケーキ終わったら、煮味噌汁も作ってね!グリス君はそっちの鍋見てて!」
「は・・はい!」
変な妄想の種にされているとはつゆ知らず、グリスはツユクサのお浸しに使うなべを見ながらツユクサを入れていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ・・・・・・」
もしそうだったら、あの二人はどうなるのだろうか・・・・・。
結婚するんだろうな・・・・。でも、結構年の差広くね?あっちが25で
琥流栖16だぞ。9だぞ9。そんな歳の差があっていいものだろうか・・・・。
「はぁ・・・。」
また溜息が出る。あいつの体柔らかそうだもんなぁ…・カップEくらいだぞ、E。あれをまさかあの大きな手で揉んだんじゃ・・・・。あぁ、余計に気分が暗くなってきた。なんでだろう、あいつの幸せを願ってるはずなのに。
「なんでだろうなぁ・・・・・・・。」
あいつのことは好きだが自分にはふさわしくはないのだ。だから近くにいるだけでも幸せのはずなのに・・・・・。
「はぁ・・・・・気分が余計に暗くなる・・・・・。外行こう・・・。」
気分がどんよりしたって仕方がないので外に行くことにした。庭の景色を少しでもみれば気が晴れるだろう。
そう思った時だった。
『あんた、誰?客?』
不躾で高めの声が届く。あぁ、あいつか、こんな俺の機嫌が悪い時に・・・・・フルボッコにしてやろうか。
夏果がいるところへ移動すると、そこには可憐な顔をした少女がいた。
(ほう・・・・・・。)
年は琥流栖と変わらなそうで、肉付きは少し薄すぎる感がある。あれでもう少し食べたら、多分琥流栖よりも可憐な雰囲気を持った美少女になるだろう。
そんな妄想をふくらませながら可憐な少女をじーっと見つめていた楽太郎だが、あることに気付いた。片目が眼帯で覆われているが、微妙にりヴリーの宿す魔力と少し質が違う魔力を宿していたのだ。
こいつ、裏の人間だろうか。少し警戒しながら話しかけようとした。すると俺は信じられない事実を投げつけられたのだった。
「はっ、貴様の目は節穴か。私は男だ。バカめ残念だったな」
ノオオオオオオオオォオォォゥウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!!!
馬鹿な―!俺一応視力3,0だぞ!なのに見破れなかった―!!!!
こんちきしょうー!!
そう心の叫びを響かせながら激しく変な踊りを踊っていた楽太郎だったが、向こうがだんだん険悪な雰囲気を作りだし始めたので、とりあえず落ち込んでも仕方ないと思い、夏果を止めに行ったのだった。
そして、クレスという名の男と話しているうちにわかったことは琥流栖と知り合ったということだ。多分だが、琥流栖に曲を聞かせるというのは口実で会いたいだけなのではないのだろうか。
もしそうだとしたら、もしそうだとしたら・・・・・・・!
『お前はとてもきれいな心をしているな・・・・・。』
『そんなことないです・・・・・体はこんなにも穢れてしまっているというのに・・・・。』
『そんなことはない・・・・心まで穢れていたら、お前に会いになんか行かない。』
『クレスさん・・・・・』
『私に身も心もすべてを預けてくれないか・・・・・?』
『あぁ、クレスさん・・・・・・!』
うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅっ!
さすがに想像のネタにしている本人の前で叫ぶことはできなかったが、顔が自分ではかなり青ざめていた。手を引いてる二人を見つめながら、
あぁ、俺ってやつは・・・・と心底自分の子の妄想癖を呪ったのだった。
あー、何考えても億劫だし、さっさとバイト終わらせてねよー。
そう思っていた時だった。一通の電子メールが届いた。その内容は・・・・。
「・・・・おいおい、うそだろ・・・・・?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ご主人様、こっち終わりました!」
「僕も副菜、完成です!」
「御苦労!こっちももうすぐ終わりそうだ!もうちょっとの辛抱だから頑張って!」
『はい!』
威勢のいい返事が聞こえ、料理の焼ける音と、お湯が沸騰する音が空間に満ちている。これでもうすぐ今いるお客さんの量はさばけた。後は、ロールケーキが冷えるのを待つだけ。
そう思った矢先のことだった。楽太郎があわてて部屋に入ってきた。
「おい、爪太郎!やばいぞ!」
「え!?」
「30名の団体客の予約がきた!どうする、爪太郎。」
「・・・・・・…ご主人。」
「爪太郎さん・・・・・・・・・」