紡がれし絆
三人が不安げな顔で爪太郎を見る。爪太郎はまず最初に訪ねた。
「客は?」
「ブロッサム学園の孤児23人、職員が7名。」
「この後も予約の客とかが来るかチェックしといて。後それから団体予約の席をあけて、2階にはまだ使われてない空間があったはずだから。」
「・・・・・・わかった。」
楽太郎は2階を使えるようにするために移動していった。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・ご主人様・・・・。」
爪太郎はこめかみを人差し指でもみながら苦笑した。
「・・・・ごめんね。二人とも、とくにグリス君。もし倒れたりしたら、私のこと労働法違反で訴えてもいいから。」
グリスは深呼吸を1,2回した後に言った。
「大丈夫です・・・・・・・僕は、子供が大好きですから・・・。」
「・・・ありがとう・・・、いい従業員ね。あんた。」
「えへへ・・・・・・。」
爪太郎は少し微笑んだ後、表情を引き締め、考え始める。
現実の話、無理やり楽太郎に厨房を任せても接客の方面で人員はそがれてしまうばかりか、厨房との連携も取りにくくなってかなりの時間ロスになってしまう。
何か、何かいい方法はないだろうか。団体の客も、個人の客もできるだけ時間を忘れさせる方法は・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・あ!」
あった。ひとつだけ、しかしこれはかなりリスクが高い。一か八かの賭けだ。だが、何もしないよりはましだった。当たって砕けろである。
「・・・・グリス君・・・・。」
「は・・・はい!」
「あなた確か楽器が弾けるはずね。」
「はい・・・・。」
「お願い、演奏を即興でやってくれる?出来るだけお店の雰囲気を和ませるようなものをお願い。」
「・・・わかりました。」
爪太郎とグリスのやり取りを琥流栖は見ていた。
あたしも役に立ちたい。ただこうしてみているだけなんていや。
爪太郎がなぜ孤児院の団体の予約を受け入れたのかは大体想像が付いた。そういう性格で、いつも爪太郎は損な役回りが多い。子供たちだって、このレストランでおいしい食べ物と話を聞きたくてここにやってきている。なんとかしたい、助けたい。どうしたら。
「・・・・・・あ!」
いた、ひとり。だが、弾いてくれるのだろうか。わからない。でも・・・・!
何もしないよりはまだマシ!
「あ・・・・・・あの!」
『ん?』
「あたし、知ってるんです・・・・・。楽器が弾ける人・・・・。」
楽太郎は少し溜息をついた。
「・・・客じゃなかったのかよ。」
あのお姫様は・・・・。
楽太郎はクレスが座っている席に向かっている途中だった。あの高物姫が引き受けてくれるとは思わないんだがな・・・・・。
「・・・・・・クレスさん・・・・・。」
食事を終えた後らしい。クレスは口をナプキンで拭いていた。呼びかけられた本人は楽太郎のほうに顔を向けた。
「なんだ。」
「・・・・・・ここで演奏してくれないだろうか。」
クレスは少し楽太郎の顔を見て行った。
「理由は?」
「・・・・・団体客がやってくるから料理がやってくるまでの時間稼ぎだな。」
「断る。そんな安い理由で、私はバイオリンを弾きに来たんじゃない。」
「おい・・・。」
「大体、誰がそんなことを言い出した。」
「・・・・・・琥流栖だ。」
「・・・・・・・・!」
クレスは少し失望したような顔をした。
「・・・勘違いするな。あいつはあいつなりの考えがある。俺と一緒の考え方じゃねえ。それだけは分かれよ。」
楽太郎は付け足した。
「・・・・・なんでそんなことをあいつは言った。」
クレスは下を向きながら聞いた。楽太郎は肩をすくめて、答えた。
「・・・・それは自分が本人に聞くことじゃないのかな?クレス姫?」
「っ貴様・・・・・・・!」
突っかかろうとしたが、突っかかる前にいつの間にか席からいなくなっていた。
「・・・・・・・・・。」
クレスは席を立ち、楽太郎の後を追った。
琥流栖は爪太郎が作った料理を皿に盛り合わせていた。その時である。
「おい、琥流栖。王子様のお出ましだぜ?」
「え・・・・・。」
楽太郎の隣に、クレスがいた。琥流栖はクレスのそばに来て「どうしたの?」と尋ねた。
「・・・・・理由を言え。」
「なんの・・・?」
「俺をこの店で演奏させようとした理由だ。まさかお前は私のバイオリンの腕を売り飛ばすためにここに招待したわけではないのだろう?」
「っ・・・・・・・・。」
クレスは更に問い詰めた。
「答えろ。」
琥流栖はゆっくりと答えた。
「・・・・・違うよ・・・・。」
「ならなぜあんなことを言った。」
「・・・・・・・・・子供たちのために、弾いてほしいと思ったから・・・・。」
琥流栖は涙をためながら、制服の裾を握りしめながら言った。
「あの子たちは親から虐待されていた子もいるから・・・・・。ここに来たからには目いっぱい楽しんでもらいたいと思って・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・。」
もはや半泣きの状態で、琥流栖は謝っていた。
「・・・・・・・・・。」
「もうこんなこと頼まないです・・・・・。」
―あいつはあいつなりの考えがある。俺と一緒の考え方じゃねえ。
私が孤児院にきた最初のころ、みんなが普通に接してくれて、みんなと普通に話していた。
自分と同じ親に捨てられた者、虐待された者、みんな事情を抱えながら、お互いわかりあっているようで。別にさびしいわけではなかった。
だけど、あの噂がたってから、あれはただのうわべだけで接しているんだということが分かった。
あれ以来、人は信用していない。
だが・・・・・・だが・・・・・・。
「・・・・・弾こう。」
「・・・・・・・ぇ・・・・?」
琥流栖はうつむいていた顔を上げる。クレスは続ける。
「お前が本当に善意で弾いているというなら。私は弾こう。だが、もしそれがうわべの言葉だったら私は二度とバイオリンを弾かない。それでいいな?」
「・・・・・・・はい・・・・・・!」
琥流栖は力強くうなづいた。
「曲を弾く場所はどこだ?まさか舞台がないんじゃ話にならないぞ。」
「・・・・・・こっち!」
琥流栖は小走りでクレスとともに2階の団体客用の席に向かったのだった。
一方団体用の予約の席、爪太郎と、楽太郎の魔法によってこぎれいにされている。グリスのピアノの様子を爪太郎と楽太郎は見ていた。グリスの演奏を聴いて爪太郎はつぶやいた。
「へぇ・・・・・結構イイ線いってんじゃん・・・・・・。」
「俺は楽器のことはよくわからん。」
「・・・・・・ロマンのない男ね。本当に。」
「・・・・・・。」
楽太郎はグリスの曲などどうでもい、今気になったのはなぜ人間である爪太郎が魔法を使えたかということだ。一体この女は何者なんだ。魔導士なのだろうか。だが、爪太郎には魔力のひとかけらも見当たらない。
(・・・・一体何者なんだ・・・。)