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鷹乃爪太郎
鷹乃爪太郎
novelistID. 17799
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舞台、演奏、そして・・・

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時間がたつと団体客がやってきた。子供がたくさんいる。

「わあぁ・・・・・かわいいなぁ・・・・・・」

グリスは目を輝かせた。その時である。

「あー、あの時の兄ちゃん!」

「約束通り来たからねー!」

 あのときグリスたちがあった子供たちだった。

「うん、ありがと~。」
 
 グリスはにこにこ微笑みながら答えた。

「あのとき・・・?」

 クレスは怪訝そうな顔をしてグリスに訪ねた。

「あ・・・・僕、バイトに行く途中であの子たちと遊んでたんですよー」

 孤児だったんだ。でも、じゃあどうやって一人であそこまで来たんだろう。
あそこまでの道のりって複雑だって琥流栖さん言ってたのに。そこまでして行きたかったのだろうか。
 グリスは少し考え込んだ。
 すると夏果が表れた。クレスは少し眉を動かした。

「へぇ、あんたが新人のバイトさんなんだ。」

 夏果はグリスを品定めするようにじーっと見た。

「男のくせぼんやりした奴だなっ!」

「え・・・・・・・・・・。」

 真正面からいきなり言われたのだった。グリスは少ししょんぼりしながら答えた。

「ぼ・・・僕だって一応やる時はやる男ですよ・・・・・・。」

「そんなことどうだっていいんだよ。」

 夏果は吐き捨てた後、クレスを睨みつけた。クレスも負けずと睨みつける。

「・・・・なんだ・・・・・。」

「さっきはよくも姉ちゃん泣かせてくれたな。あんたがどんな人生送ってきたかは知らねぇけど、あんたが関わってきた人間と楽太郎みたいなダメ人間とは違うんだよ。姉ちゃんは・・・・・・・っ!」

睨み方がどんどんきつくなっていく。

「姉ちゃんだって・・・本当は・・・・あんた達と」

「おい」

 気が付くと楽太郎が後ろにいた。クレスは目を見開いた。いつの間に。夏果が楽太郎のほうを向いた瞬間にラリアット喰らわせたのだった。
 グリスは痛そうに顔をゆがめた。一方技を食らった本人は『グえっ』と蛙が潰れたような声を出して。気絶したのだった。
 
「邪魔したな。」

 楽太郎は二人にそう謝罪すると、移動しようとした時だった。

「まて、楽太郎。」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

クルスは厨房で爪太郎とともに、団体客用の料理を作っていた。

「懐紙の数増やして!終わったらそれに卵を一つずつ割ってって!」

「はい!」 

爪太郎はほぼ叫びに近い状態で琥流栖に話している。

「手間がかかる料理はそれで最後だから!後は冷凍物の野菜を使ってこれ作って!」

「はい!」

(あと少し、あと少し・・・・・・!)

 珍しく琥流栖にしては焦っていた。それは、二人の曲を聞きたいという思いもあったのだろう。ドジをしないように神経を集中させながら、早く終わらせようとしていた。
 
(わたしは、もう歌うことはできない、だけど・・・・・・。)

 だけど、せめて。曲だけは聞きたい。あのとき聞いた曲は自分が歌ってはいけない存在なんだということを忘れさせてくれる。どんなにつらくても、この曲がきけたらもうどんなつらいことでも乗り越えていけるような気がしたのだ。
 ようやく琥流栖は調理の仕事を終え、あわててエプロンを脱ぎベストを着ると、2階の団体客の空間に向かって言った。

「ちょ、ちょっと待って!琥流栖!まだこっちの接客が・・・・。」

 すると楽太郎が『おれがやりますよ。』といった。爪太郎が怪訝な顔をした。

「・・・・あんたが積極的に仕事するなんて・・・・・雨か雪でも降るんじゃ・・・・;」

「そうならないように今回の給料上げてくださいなw」

 爪太郎はやはりそれが目的か、といった感じで額に手を当てた。

「はあぁ、ま、いいよ。今回あんたたちは本当によく頑張ってくれたしね。」

「爪太郎に過労死されたら困るからな。」

 小声で言ったがしっかり聞こえた。爪太郎はそのセリフに思わず苦笑した。
 それに、と楽太郎は心の中でつぶやいた。

 琥流栖の心の中にあるのはあいつらみたいだしな・・・・・。

 自分は来栖の心の中には入ることはできなかったからな・・・。

 だったら、せめて、あいつの願いをかなえてやりたいって思うのが男って奴だろ・・・・・?

 そう考えていると、客が近づいてきた。その客は・・・・・。

「・・・・・・・へ・・・・・?」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 琥流栖は急いで走った。ヒールが痛む。立ちっぱなしの作業だったのでふくらはぎだっていたい。だけど、もうそんなことどうでもよかった。

「・・・・・あとちょっと・・・・・・・!」

 一生懸命走ってようやく、団体客用の空間前の扉に着く。が、

「あ・・・あれ・・・・?」

開かない。押しても引いてもびくともしない。

「・・・・そんな・・・・。」

 ここまで来たのに、一生懸命押しても全然開かない。すると後ろから誰かがすっと引いてくれた。

「方向が逆ですよ。ヒッヒッヒ・・・・・。」

琥流栖は急いでたので完全に誰か把握せず、礼を言った。

「すみません、ありがとうございます!」

そういうと琥流栖は急いで中に入って行ったのだった。

 ※ ※ ※ ※ ※

「・・・・・・・ヒッヒッヒ・・・・・あの子もずいぶん大きくなりましたねぇ。かわいらしい。まるで源氏物語に出てくる若紫みたいですよ・・・。」

爪太郎は眉をひそめながら言った。

「お世辞はそれくらいにして頂戴。で、りヴリーの、いや、この世界の管理人の一人がこんなところで何やってるのかしら。・・・・・・ダークヤグラ、いや・・・今はダークさんとでも申しておきましょうか。」

 ダークヤグラと呼ばれた人物はクスクス笑いながら、爪太郎を見る。

「自分だって大それた能力を持ったりヴリーが何を言うんですか。いや、りヴリーと呼ぶのもどうかと思うような存在ですね。あなたの場合は・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 ひっひっひと再びダークヤグラが笑うと、いきなり切り出してきた。

「実はですね・・・・・。」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 子供たちが静かにみている。その空間には人一人の声もなかった。美しい曲だけが流れていた。琥流栖は息を整えながら、舞台の近くに行こうとした。子供たちの邪魔にならないようにできる限りの配慮をしながら・・・。
 やがて、舞台の前あたりに移動した琥流栖はその曲を聞いていた。

ー同じだ・・・・あのときと・・・・綺麗・・・・・気持ちいい・・・・・
 
 しばらくその曲に耳を傾けていた。すると、二人と目があった。何となく琥流栖は目いっぱいの笑顔で返した。
 約束通り、ちゃんと来れたよ、とそう言いたかった。たとえ、その約束が自分だけの独りよがりの約束でも、何となく果たしたかったのだ。
 二人は微笑んだ。

―――――――――――・・・・・・・・・・・

 セッションは無事に終了し、料理が無事に運ばれていった。この後、琥流栖は爪太郎に謝罪していた。

「ごめんなさい、ご主人様・・・・。」

「いいって、本当に今日はみんなよく頑張ってくれた。」

爪太郎は微笑みながら言った。

「とりあえず今日は3人とも通常の給料より2,3割上げとくから。」