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双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】

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「さて、帝人君は愛しいお兄ちゃんに聞きたいことはもうないのかな?」
 臨也の言葉に帝人は少し瞬きをして口を開く。
 これもまた正臣から聞いた名前。
「平和島静雄さんって、シズちゃんですか?」
 言った瞬間、臨也の表情がわずかに凍る。
 失言だったのだろうかと表情を曇らせると臨也は笑って「ごめん、ビックリしただけ」と手を振るが帝人の言葉に否定も肯定も返さない。
 何事か考える仕草の後、伝票をとり「出ようか」と立ち上がる臨也に帝人は戸惑いながらも従う。
 帝人の言葉に答える気がないのかと思ったら臨也は気にした様子もなく「そうそう、シズちゃんね。俺の高校の同級生のシズちゃん、平和島静雄」とあっさり口にする。
 手で指示されて臨也が支払いをしているのを店を出て帝人は待つ。
 人通りが時間帯にしては少なくなっていたが街に慣れていない帝人は気づかない。
 早足にせかせかと歩く人にぶつからないように端による。
 店から出てきた臨也に「ご馳走様です」と頭を下げる帝人ににこやかに笑いながら臨也が吹き飛んだ。
 超常現象に声をあげる暇もなく地面にざりざりとこすられていく臨也を帝人はただ目を見開いて凝視する。
 臨也の傍らに転がるのはコンビニなどの頑丈なゴミ箱だ。
 呆然となる帝人の耳に聞こえる臨也の痛そうなうめき声。
 帝人は涙目になる。
 骨が折れていても不思議ではない。
 周りは遠巻きでこの状況を見ているのに誰も救急車や警察を呼ぶ気配がない。
 都会の厳しさをこんな風に知ることになろうとは思わなかった。
 自分しか臨也を心配していない。
「大丈夫ですかっ!!」
 臨也に近寄り抱き起こすと手に生温かい感触。背筋が冷える。
 独特の匂いは確認するまでもなく血である。帝人はぐらぐら視界が揺れる。「本当ひどいな」と臨也が肩をすくめた。
 直後、看板が臨也の真横を通過する。バチバチと火花を散らすケーブルがわずかに帝人の腕をこする。
「てめぇ、人質のつもりか」
 バーテン服の言葉に臨也が帝人を挟んで彼と向かい合っているのを勘違いされたのだと知る。
 弁解は無意味に思えた。
 鬼のような顔のバーテン服が人の言葉を理解してくれるとは思えない。
 臨也を庇うようにぎゅっと抱きしめる。「俺が死んだら遺体はことことシチューで煮込んで骨も残さず帝人君が食べてね」と冗談にならない言葉を吐く。
(臨也さんが死ぬ前に僕が死ぬ)
 正臣の助言を思い出す。
 関わってはいけない人。
 本当、ろくでもない。
(でも僕にとっての臨也さんはやっぱりお兄さんで憧れでなのに放っておけなくて)
 だから、退けと言われて退くこともできなくてトラックにはねられるのってこういうことなのかという事態に直面してしまう。