双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】
帝人は少しだけ考えてから「すみません」と頭を下げた。
「臨也さんだって、その、二人のことを思ってたのに、その・・・・・・」
「別に正臣君の反応は当然だよ。正臣君が悩んでいるのに俺は彼女と今までと同じように関わっているんだから」
「信頼されているんですね」
「妬いちゃう?」
「いえ、尊敬します」
「時間が解決することだから帝人君も二人のことは知らないふり、ね?」
不自然さを感じないこともなかったが帝人は頷く。
「それにしても俺たちの関係、正臣君に言ってないんだよね?」
「・・・・・・言い出せる雰囲気じゃなくて」
「今は正解じゃない? もう少し冷静になれば彼も『臨也さん、俺たちのために色々とありがとう!』とか言ってくれる」
「臨也さん、冗談にならない時に冗談を飛ばして嫌われてます?」
「なかなかに真理をつくじゃないか。でも笑えない冗談も嫌いじゃないだろう?」
「それで誰かが不幸にならないなら好きですよ」
帝人は笑う。誰かを傷つけるための感情は本気でも冗談でも苦手だ。
「誰も不幸じゃないから、俺のこと好きだね」
「またそういうこと言って」
帝人の苦笑に臨也が満面の笑みを浮かべる。と、それだけで周囲が華やぐ気がした。美形とは空気を変えるものらしい。少女漫画みたいだ。
帝人は肩をすくめながら半ば溶けてしまったアイスをすくう。
「彼女いないんですか?」
「えー、帝人君一筋だって言ってるのに」
「笑えない冗談は今は置いといて」
「俺は趣味や仕事を優先して帝人君以外の人間にわざわざ時間を割くのは難しいんだよ」
意味が分からない言葉だったが帝人は生返事でパフェを食べる。臨也はいつでも帝人の理解が及ばない話をする。
「お兄ちゃんはこう見えてモテないんだよ」と信じられないことを言うが「フラれた、慰めて」と長電話に付き合わされたことを思い出す。
「顔がどれだけよくても甲斐性なしは嫌われるんですね」
「帝人君には甲斐甲斐しいよ、俺」
「ほどほどで平気ですから、彼女が出来たら頑張ってください」
「フラれたら慰めてよ。繊細なんだから優しくして甘やかして四六時中そばにいて」
「僕でよければ好きなだけ付き合いますよ」
言ってから帝人は少し後悔して「折角近くにいるのに会う時間が減るのは淋しいですけど」と小さい声で付け足してしまう。
子供っぽい考えに恥ずかしくなって帝人は視線を逸らすようにパフェをパクつく。
臨也は冗談を言ってからかうこともなかった不思議に思って見てみればひどく優しい顔をしていた。
作品名:双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】 作家名:浬@