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[童話風ギルエリで5つのお題]

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 ギルベルトは羊飼いをからかう気がなくなってきました。エリザベータは、誰にも好かれない彼の隣で静かに眠る娘でした。羊を追って走り、弓矢を携えて森へ入り、異国の歌を歌い、草原で裸足で踊る娘でした。羊飼いの村へ戻らずに、パンを携えては笑顔で帰ってくるエリザベータが、ギルベルトのすべてになりつつありました。

 少しずつ羊を返し続け、残る羊がわずかになった日、エリザベータはギルベルトに尋ねました。
「村へ入れてもらえるように頼んでみない?」
「無理だ。俺がしたことを忘れるはずもないし、謝るつもりもない」
 エリザベータは言いました。
「そうね。傷ついたあなたに彼らがしたことは、忘れてなんて言えない」
 ギルベルトは飛び上がるほど驚きました。
 野盗の一団からはぐれてさまよったギルベルトは、この村で一杯の水を求め、よそ者を嫌う羊飼いたちに追い出されていたのでした。それは、戦う力のない羊飼いたちの取った最良の手段ではありましたが、生き残ったギルベルトは飢えた狼のように執拗に村を狙うようになったのでした。
 エリザベータはいつそれを知ったのか言おうとはしませんでしたが、代わりにギルベルトの頬を両手で優しく包みました。
「優しい狼さん、いつ私を食べるの? 村の人は、早く私が食べられて、あなたがいなくなればいいと思っているわよ」
 ギルベルトは答えました。
「俺の欲しい物が手に入ったら」
「なにが欲しいの?」
 エリザベータは尋ねました。
「俺のこの先の旅の道連れを」
「それは、いつまで、どこまでの旅?」
「この先ずっと、どこまでもだ」
 ギルベルトが答えると、エリザベータは花がほころぶように笑いました。
「私、ついて行きたいわ。狼さん、道連れは私ではだめ?」
「おまえしか、だめだ」
 ふたりは瞬きをみっつする間黙って見つめ合い、それから固く抱きしめ合いました。

 ***

 丘の上の羊飼いにすべての羊が返された日、もはや馬にも狼にも遠慮することがなくなった羊飼いたちは、手に手に武器をとって洞窟へ押し入りました。
 そこには誰もおらず、たき火は消えて冷え冷えとしておりました。

 花畑を抜け、森を抜け、朝日に裏側から照らされて光る淡雲の下を、手をつないだ狼と馬が歩いてゆきます。
 馬は朗らかに歌い、狼はその横顔を眺めて笑いました。
「ひとつ言っておくことがある」
「なあに?」
 くるりと振り返ったエリザベータに、ギルベルトは素早く口づけを落としました。
「欲しいものが手に入ったのだから、今宵はおまえを食らうぞ」
 エリザベータの微笑みが、驚きと恥ずかしさで薔薇色に染まってゆくのをギルベルトは満足げに眺めると、足を早めました。
「せいぜい、喘げよ姫君」

***fin***