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麒麟、生涯の王と出会う

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折原臨也は自分が異質な存在であることを知っていた。

幼少時から血が苦手だった。
嗅覚が特別良いわけでもないのに、微かな血の臭いだけは敏感に感じ取り、その臭いは少量でも気分が悪くなった。
特別トラウマがあるわけでもない。ただ本能的に、自らの体の中にも流れているはずの?血?そのものが苦手だった。
また、臨也は人に頭を下げるという行為にも嫌悪感を感じていた。
いや、嫌悪感というのも生易しい。お辞儀程度に頭を下げることならなんとかできる。しかし、膝を付き深く頭を下げる ― 土下座に近いこの行為がどうしてもできなかった。
昔、派手な悪戯をしでかした臨也に怒った大人げない人間が、まだ幼い臨也に土下座して謝れと迫ったことがあった。目の前の人間の怒りにおされ、震えながらも頭を下げようとした臨也を襲ったのは、体の震えと今まで感じたことのないような気持ち悪さ。両親が現れ臨也の行為を代わりに謝罪し、その場は治まった。
未だに震える体を両親に抱きしめられ、迷惑をかけたことを謝りながらも、臨也は自分の異常性をまた一つ感じていた。
それ以来、臨也は品行方正・人畜無害な存在であることを心がけた。
人に頭を下げることなどないように、謝ることなどないように。
自分を装うことは癖になり、日常になり、それが周囲から見た『折原臨也』となった。

裕福な家庭、優しい両親、暖かな環境。何重にも仮面を被った状態とはいえ、仲の良い友人、教師。
折原臨也の人生は恵まれたものだった。
だが、その日常の中で違和感を常に感じていた。

臨也はそのまま年を重ね、十八歳になった。
大学は自分の心理をより深く考える糧として、心理学を専攻した。だが、心理学を学んでも周囲の人間の軽薄さが臨也の中で際立つだけで、消えない違和感を消すことはできなかった。
この世界で自分はどんな存在なのか?
本心から楽しいと感じることもなく、常に嫌悪感と違和感と共に時間を過ごすことは苦痛で、退屈だった。
自分の存在意義を見つけれないまま、臨也は無為に時間を過ごしていった。

全ての答えが転がり落ちてきたのは、臨也が二十歳になった頃だった。


 * * *


力強く手を引かれたかと思うと、身体が歪むような強い引力を感じ、思わず目を閉じた。
次に瞳を開いた時、目の前に見えたのは中国の時代劇にでも出てくるような煌びやかな衣装に身を包んだたくさんの人と、本でしか見たことのないような生き物 ― 一部に人の姿を模した獣だった。
体型は女性的なラインなのに、人間に見えない原因は背中から大きく生えた羽と体中を覆う羽毛。加えて足元に目を移せば、鳥そのものといえる前三本・後一本に別れた鋭い爪を持つ足。
悲鳴を上げなかったことが不思議でならない。あまりの事態に言葉を失う臨也に、その化け物は安堵したように微笑み言った。
「やっと…やっと見つけました、臨麒」

麒麟とは、一国に一の最高位の神獣。
国とは、臨麒(りんき) ― 臨也が王と共に治めるべき国、厘国(りんこく)。
王とは、王は麒麟によって選ばれ、天帝に代わって国を統治する人物。
天帝とは、この世界の最高神であり創造主でもある。
この世界は、臨也が今まで暮らしていた世界―こちらでは蓬莱と呼ばれていた―とは違う世界。十二の国と黄海と呼ばれる島、その他は虚海と呼ばれる海で形成された世界。
臨也は元々こちらの世界で麒麟として生まれるはずだったのに、蝕と呼ばれる時空間の乱れによって卵果が流され、蓬莱で生まれたらしい。
ちなみにこの世界では生き物は母体を介さず、卵果(らんか)と呼ばれる木の実のようなものから生まれる。

聞かされたこの世界の理。すぐには信じられないような内容だ。だが、臨也は理解し受け入れた。
これが自分の違和感だったのだと。この世界こそが自分の世界で、自分の存在意義を見いだせる場所なのだと。

それから臨也はこの世界の知識を必死で学んだ。
転変(人の姿から獣の姿になること)をこなし、妖魔を使令として従え、麒麟としてなさねばならないことをわずか一年でこなした。
そして臨也は最重要ともいえる役目、王を選ぶため昇山をおこなった。

昇山(しょうざん)とは、王に選定されることを望む人々が、自力で蓬山―現在臨也が暮らす山―に登ってその国の麒麟に面会することである。
麒麟は自国の民を見定め、王になるべき人物を探さねばならない。
結果から言うと、昇山した人の中に臨也が王だと思う人物はいなかった。
厘国は先王と麒麟が共に崩御したため、新しい臨麒として臨也が生まれたが、その臨也も蓬莱へと流され二十余年の月日が経っていた。
王の不在は国を荒らす。厘国は長期の王の不在で荒廃しきっており、逸早い王の選定が望まれている。
臨也も耳が痛いほどに聞かされていたが、それでも王となるべき人物は見つからなかった。


臨也は再び自分が異質な存在であることを感じていた。
麒麟とは本来慈悲深く、争いを嫌う生き物である。
しかし臨也は少し違った。
確かに国民を愛し、国を豊かにしたいという気持ちはある。だが、それ以上に争いを、正確には変化を望んでいた。
元々の性質なのか、長期間蓬莱で自分を抑え生きてきたせいか、臨也は麒麟として少々歪んでいた。
叩頭、つまり頭を地につけておじぎをすることが王を選んだ証になると聞いた時、臨也は自分があれ程頭を下げることを嫌ったことに納得すると同時に、無理だと思った。
正直、自分が王を見つけることができるのか、この自分が王としてふさわしいと思える人物を認めることができるのか疑問だった。
自分を支配し、仕え、共に生きる人物が現れるとは到底思えなかった。

臨也がどう考えていようと王は見つけなければならない。それが麒麟としての使命だ。
昇山した人間以外で、王の資質を持つものを見つけるため、臨也は国中を駆け回った。

そして、ついに見つけた。




作品名:麒麟、生涯の王と出会う 作家名:セイカ