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Have a nice Weekend

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 ソファの端にもたれながら、くつろいでいる雑渡さん。そんな雑渡さんの伸ばした足が当たるか当たらないかの距離に座っていた食満くんは、ゆるりとした時間を過ごしているうちに、一度は解けた緊張感が再び襲ってくるような感覚を自覚していました。クライマックスを迎えたロードショーに目を向けながらも、視界の端に映る雑渡さんの存在が気になって仕方がありません。口元だけ緩められた包帯から覗く唇。口付けたグラスが離れる度に、ちろと舌舐めずりをする姿がちらちらと目に入り、食満くんの緊張感を高めています。食満くんがここを訪れるのは、今日が初めての事ではありません。二人きりの夜を過ごすことも、初めてではありません。それでもしっかりと緊張して、得体のしれない恐怖感に近い様な感覚に陥ってしまう位には、まだ二人の間柄はあやふやなものなのでした。なんでここにいるのだろう、なにをしているのだろう、なんて疑問がくるくると脳内で回りだしていても、カランと氷が揺れる音がして、反射的に視線を移した先に、緩んで解け掛けた包帯に少し隠れた喉がこくりと動く姿を目にしてしまうと、言いようのない感情が食満くんの心を支配します。言いようのない、と形容しましたが、言ってしまえば、それは雑渡さんへの好意であり、さらに突っ込んだ言い方をすれば、欲情しているわけですが、それは今の食満くんには自覚しがたいことでした。それでも今夜ここを訪れて、こうして雑渡さんの横に座っている以上、それが紛れもない真実であることは、心のどこかでは認めている。はずなのでしょう。食満くんの心音は、映画の効果音の様な大きな音でドクンドクンと食満くんの体中に響いています。
 食満くんは、ふるふると顔を左右に振ってから、半分ほど残ったぬるいビールを喉を反らしてぐびりと飲みほし、開いた缶をかつんとテーブルの上に置きました。それに反応するように雑渡さんが食満くんを見つめ、それからエンドロールの流れるテレビを一瞬見てから、もう一度視線を食満くんに戻して口を開きました。「もう終電の時間だけど、大丈夫?」これには食満くんも面喰らいました。そもそも、今夜はここへ泊るつもりの食満くんなのです。確かに、泊ります、と宣言していたわけではありませんし、約束をしていた訳でもありません。これは帰れと言う事なのか、大丈夫じゃないと答えれば追い返されてしまうのか、などと思うと、腹立たしさと、それを上回る切なさが食満くんの心を圧迫します。大丈夫じゃないから泊めろ、そう言った時に、もし迷惑そうな顔をされでもしたら、今日までこの週末を楽しみにしていた自分が、酷く惨めに思えてなりません。ちなみに言えば、食満くんの明日の予定も、まるまる空けているほどにはこの週末への意気込みが並々ならないものであることは明白なのです。そんな思考に陥った食満くんが複雑な表情で口を開けないでいると、雑渡さんは再び口を開きました。「お家の人にはなんて言ってきた?」大人が子供に対して使うような、そんな口調です。食満くんは眉をしかめてから、恐る恐る、「…伊作の家に、…泊るって」と答えました。食満くんの返答に、雑渡さんは表情一つ変えずに「それで問題はない?」と問いました。食満くんは息を吸うように口を開いて、「伊作には、……あんたの家に泊まるって、言ってある。問題なんて…ないだろ」不貞腐れたようにそう答えると、雑渡さんは今度はにこりと笑って「それは上出来だ」と言いました。
 食満くんの楽しい週末は、まだ始まったばかり。お楽しみはこれから、そんな言葉が相応しい、週末の夜です。

作品名:Have a nice Weekend 作家名:いちごう