はらだたしいおとな
されたいです!とは言えなかったけど思わず黙ってしまったので結果的には一緒だ。デンジさんは正直なのはいいことだと言って僕のくちびるに自分のを押しあてた。なんなんだこの人。彼女いるんじゃん。年上が好きなんじゃん。包容力がある人が好きなんじゃん。それは確実に僕には当てはまらない修飾語ばかりだ。そもそも僕女の子じゃないしね。いろいろ考えすぎて、デンジさんがくちびるを放して僕の目を覗き込んでいるのに気付くのにしばらくかかった。まばたきしたらデンジさんの金色のまつげまで見える。奇跡的な距離だ。
「……………」
「……………」
「………あの、」
「あのさコウキ」
「はい」
「やっぱおまえ俺のこと好きだろ?」
「………はあ、まあ、……え?」
「だだもれだよおまえ」
「だっ……!」
「ごめんな。それがうれしくてついずるずると」
「うれ、……うれしい?」
「うん。彼女出来る度に気にしてませんよって顔してほんとはちょう気になってたり、なにかと俺んち来たり、俺に会うと一瞬すげーうれしそうな顔してすぐになんでもないような表情にしたり」
つまり僕の努力は全部見透かされていたわけだ。泣きたい。
「そういうとこすっげえかわいいよ」
「ありがとうございます……」
「ア 泣きそう?」
「……ちょっと恥ずかしさが容量オーバーで」
「………悪かったよ」
あいしてるよ、泣くな、って目じりにキスされた。どうしようもなく大人だ。くやしい。ぎ、って睨みつけたら困った顔をする。年上ぶりやがって。腹立つ。その、手に負えないわけではないものをほんの少し持て余してるって表情。反吐が出る。すきだから許すけど。本気で困らせたくて、じゃあいますぐ彼女さんと別れて下さいって言ったら満面の笑みで携帯を手にとった。少しは困れよ。