無題
土方は黙って沖田の腕を引いてくれる。それは今も昔も変わらない。
でも今は、その背中に遅れて付いていくだけじゃない。腕を引かれるだけじゃなくて、その手をちゃんと握り返すことも出来るし隣を歩くことも出来る。
「あ。」
「なんだ?」
短く声をあげた沖田の、視線の先を土方も追う。頭より高い場所で真っ赤な紅葉が横っ風に流されていった。
「あんなきれいなの、ここいらの木から落っこちた葉っぱじゃありやせんぜ」
「どこからか風に運ばれて来たんだろ」
目を眇めて紅葉の行方を追う。
(一体どこまでいくのだろう。)
ふっと浮かんだその疑問は、けれど紅葉ではなく自分自身に向けた問いかけだったのかもしれなかった。
自分は一体どこまで行くのだろうか。
分からないけれど、それは土方が進む先でもある。
この人なら答えを知っているのだろうか。思って沖田は土方の横顔を盗み見る。けれど、何を考えているのかはわからなかった。まあいいか、と同時に思う。晴れやかな未来だとしても、血ぬられた地獄だとしても、自分もこの人も、一番大事なものは守り切るだろうから。
「あんたは山崎に芋買ってくるように電話してくだせえ。俺ァ近藤さんにストーキングから戻って来るよう電話しまさァ」
「だったら手ェ離せよ。やりづれェ」
「やなこった」
繋がった手は、そのまま。
やっぱりガキじゃねェかと文句を言う土方の隣で沖田は笑った。
沖田の頬が、落ち葉の様に赤く染まっているのは北風に晒されたせいだろうか。それとも別のわけがある。