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やっちゃった

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エピローグ


「いらっしゃい臨也。せっかくの鍋パーティなのに静雄が仕事で来れないおかげで君が参加とか。残念至極このうえないね」
「いきなりのご挨拶だね。君の運び屋への依頼減らそうか?」

ドアを開けてすぐさまのセリフに臨也の目が淀む。
何年つきあってもセルティのこと以外では全く頓着しないこの喋りには力が抜ける。

「僕のセルティ!?なんていい言葉だ!臨也にしては良いこと言うじゃない!」
「あーもういいよ・・・」

ひらひらと手を振ってこの話は終わり、と靴を脱いだ。
一体誰が躾けたものやら自分の靴をきちんと整えて置く臨也の姿を見て、今度は新羅の目が不気味なものを見るものに変わった。
その表情を見ることなく新羅に背を向けて、リビングへと歩き出す。

「ところで帝人君は?先に行っているって聞いたけど」
「あぁ、彼ならリビングで矢霧君たち男性メンバーと一緒だよ。女性メンバーは鍋作りに台所さ。もちろん僕のセルティもね!!」
「はいはい」

リビングへ続くドアを開ける直前に、臨也は振り返って尋ねた。

「ちなみに帝人君はずっとリビング?鍋作りには関わってないのかな」
「そうだね。今回は・・というか今回も女性たちがはりきってるからねー。華やかでいいことだよ!でもそれがどうかしたのかい?」
「んー別に?」

にっこりとほほ笑んで「やあ君の折原臨也が来たよ帝人君!」と叫びながらドアを開けた。



全員の前に器と割りばしをセルティが配っていく。
臨也の代わりに器を受け取って、具材をよそっている帝人の姿をにやにやと眺めていた臨也にも手渡そうとして

『割りばしだからって文句言うなよ?』

と念のためにPDAを見せると、臨也はそれを一瞥して鼻で笑った。

「言わないよ。っていうか俺お箸いらないからさ」
『?鍋をスプーンで食べたりするのかお前は』
「ちが――」
「あ、臨也さん、はい、あーん」

帝人が笑顔で臨也の口元にあつあつの白菜で巻いた豚肉を近づけた。
ポン酢に軽くつけてとてもいい匂いがしている。
突然始まったその光景に、狩沢が悲鳴のような甲高い声を発した。

「えぇぇぇみかぷーったらそういう関係!?なにそれおいしい!!」
「落ち着け狩沢!お前も止めないか!」
「いやーこうなった狩沢さんを止めるのは至難の技っすよ。諦めましょうよ門田さん」

飛びつこうとする狩沢を後ろから羽交い絞めにして遊馬崎を呼ぼうとするが、首を振って断られた。
3人のコントのような姿を見ることもせず、臨也は笑顔の帝人に同じ笑顔を返しながら

「いらないよ」

と告げた。
帝人がすっと笑顔を引っ込めるのと同時に、セルティが臨也に食って掛かる。
PDAを半ば顔に押し付けるようにして突きつけた。

『お前せっかく帝人が!!』
「セルティ、臨也はこういう男だよ」

後ろからポンポンとセルティの肩を新羅が叩いている。

「あ、いいんですセルティさん。びっくりさせてすみません」
『なんで帝人が謝るんだ!どう考えても今のはこいつが悪いだろう!』

びしっと臨也を指差すセルティに苦笑いを浮かべて、帝人はため息をついた。

「ちぇ、ひっかかりませんか・・・」

その言葉に、その場にいた全員が首を傾げる。
周りの様子など気にも留めないようで臨也はひたすらに帝人を見たまま口を開いた。

「心は惹かれるけどねー。でも俺は、俺の愛の証明を一生かけてするって君に誓ったからね。あと『はいあーん』は家でやってくれたら超嬉しい」

にこにこと笑顔のままの臨也に「家ではやりません」と帝人が言い放つ。
その2人の姿にもう一度『?』を浮かべて、セルティがPDAに文字を入力する。

『どういうことなんだ?』
「えっと、臨也さんって最低じゃないですか。人を陥れるし、暗躍するのが好きだし、自殺幇助とか人に迷惑かけるのが生きがいっていうか」
「そう聞くと俺って最悪みたいじゃない」
『最悪だな』
「最悪だね」

全員がうんうんと頷いている。
ちぇ、と唇を尖らせる臨也の頭を撫でてやりながら、帝人は可愛らしく首をこてんと横に傾けた。

「だから臨也さんの言葉なんて信じられないなーって思ったんで、ちょっとした賭けを」
「へぇ、賭けかい?臨也に対してなかなかのハイリスクだね」
「はい、僕もそう思います」

苦笑する帝人に、それでどんな賭け?と新羅が問いかけた。
すると帝人は楽しそうに肩をすくめて


「男心は胃袋でつかむんだそうです。だから、これから一生僕の作ったご飯だけ食べるなら、臨也さんの言う好きって言葉を信じてあげてもいいですよ、って」

「・・・」

全員の沈黙をものともせず、というか完全に無視して臨也が帝人の小さな体を抱き寄せる。
嬉しげに眼を細めてゴロゴロと首筋になついてくる頭をなでて、帝人は「あはは」と笑った。

「言ったらなんでか頑張っちゃってるんですよね、臨也さん。3日ぐらいで諦めると思ったんですけど」
「酷いなー。俺のことまだ信じられない?そりゃ始まりは最悪だったかもしれないけどさ、俺って一途だよ?これから俺は帝人君から離れたらご飯食べなくて餓死するんだ。それってすごい愛だよね?」
「実行できたら信じてあげますってば」

ほぼ密着するような姿で話始めた2人を生ぬるい目で見つめ、興奮する狩沢の口を押えながら門田が呆れた声で呟いた。

「・・・それってつまり、一生傍にいる約束ってことだよな・・?」
「うーん、ま、愛ってことかな?」
作品名:やっちゃった 作家名:ジグ