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血、さえ愛しい

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「折原さん、折原…り、りん?」
受付の女性の困ったような声が待合室に響く。
俺は気が付いて立ちあがった。
「折原さんですか?」
「はい。」
申し訳なさそうな笑みを浮かべて女は言った。
「すみません、今回折原さんは貧血気味のようなので…。」


なんと、俺の血は拒否された。

「…臨也さん、どうかされたんですか?」
「ん。俺献血できないみたいだよ。」
「え!?どうしてですか?悪いところでもあるんですか!?」
帝人くんが驚いたように目を見開く。
いや、そんなおおごとじゃないから。
そういや此処数日頭は重かった。それは貧血という症状なのかもしれない。
余りに慢性的なもんで忘れてたけど。
「帝人くんは大丈夫みたいだね。」
「・・・。」
「いってらっしゃい。」
「・・・。」
「どうしたの?」
「い、痛いでしょうか?」
ああ、そんなことまだ気にしてたの?
「平気だよ、痛くない。」
俺は微笑んで言った。

この程度で痛いなんて言ってちゃ俺の物を挿せないでしょ。
と、心の中で呟きながら。



「…なんか、力が抜けた感じです。」
帝人くんは不思議そうな顔をして俺の隣を歩いている。
献血後の感想がそれだ。
「そう。」
「でも、最初以外は全然痛くありませんでした。」
「そう。」
別に、俺が献血出来なかったのは貧血気味だったせいで、他意は無いのだろうけど。
なんとなく、なんとなく綺麗な血だけを選ばれた気がする。
被害妄想だと思うけど、俺の身体を流れる血はやっぱり人間には使えないんじゃないかな。
そんなバカなことを考えた。
この体を流れる血が赤色である限り、俺も人間には違いない。
いっそ青とかだったら諦めがつくのに。

帝人くん、俺にも君と同じものが流れてるんだったら良いな。

「臨也さん、貧血なんですよね。」
突然帝人くんがそう言った。
「ああ、なんかそうみたい。」
「…僕の血、臨也さんにあげられたら良いのに。」
思わず立ち止まる。
俺に合わせて帝人くんも止まった。
「現実的には無理なんでしょうけど、でも、僕の血が臨也さんの身体を流れてる、って考えたら…なんだか嬉しいんです。」
俺の血が帝人くんの中を流れたら、帝人くんを汚してしまいそうだと思ってた。
だけど、まさに逆転の発想だ。
帝人くんの血が俺の身体の中に流れたら、俺は救われるだろうか。
「…うん、ありがとう。」

俺らしくない行動も、偽善も、まやかしも、現実も、汚点も、帝人くんとなら変に煌めいて見える。

たとえ俺が『折原臨也』で無くなったとしても、きっと帝人くんなら受け入れてくれる、そんな気がするんだ。

「ねぇ、ぎゅっとさせて。」
そう言って返事も待たず俺は帝人くんを抱きしめた。



血を貰わなくても、これだけで貧血は治ってしまいそうだった。
作品名:血、さえ愛しい 作家名:阿古屋珠