春の嵐
「神聖ローマ皇帝の名において、プロイセン公フリードリヒに王号を認める」
皇帝レオポルト一世の言葉に、選定候フリードリヒに伴われたその銀髪の青年は頭をたれたまま、薄い唇を尊大に歪めた。
1701年――プロイセン王国の成立。
****
広間を辞したローデリヒはこめかみを押さえ大きく息をついた。
生々しい血と錆の臭気が、体中にこびりついている気がする。
宮殿の中では本来嗅ぐはずもない匂い――そう、おそらくは『あの男』のもたらした匂いだ。
男の名は『プロイセン』。もとは騎士団の名を持つ、叩き上げの傭兵集団である。
近年ひたひたと軍備を拡大し、この度8000の兵と引き換えにとうとう王国にまで成り上がった。
ごてごてと飾りだけは派手な垢抜けない服に、洗練とは程遠い物腰。
いかにも辺境の貧しい軍人あがりだ。番犬くらいにはなるだろう、と、おっとりした上司は笑ったが――
ローデリヒは小さく身震いする。
慇懃を装おっていたが、ふてぶてしく値踏みするような、あの目付きが忘れられない。短い銀髪の隙間から、鮮血の色をした瞳がぬらりと不吉にきらめく様が、脳裏に焼きついていた。
(…我々は、大きな間違いを犯したのではないか)
とんでもない獣を、懐に招き入れてしまったのではなかろうか。
皇帝レオポルト一世の言葉に、選定候フリードリヒに伴われたその銀髪の青年は頭をたれたまま、薄い唇を尊大に歪めた。
1701年――プロイセン王国の成立。
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広間を辞したローデリヒはこめかみを押さえ大きく息をついた。
生々しい血と錆の臭気が、体中にこびりついている気がする。
宮殿の中では本来嗅ぐはずもない匂い――そう、おそらくは『あの男』のもたらした匂いだ。
男の名は『プロイセン』。もとは騎士団の名を持つ、叩き上げの傭兵集団である。
近年ひたひたと軍備を拡大し、この度8000の兵と引き換えにとうとう王国にまで成り上がった。
ごてごてと飾りだけは派手な垢抜けない服に、洗練とは程遠い物腰。
いかにも辺境の貧しい軍人あがりだ。番犬くらいにはなるだろう、と、おっとりした上司は笑ったが――
ローデリヒは小さく身震いする。
慇懃を装おっていたが、ふてぶてしく値踏みするような、あの目付きが忘れられない。短い銀髪の隙間から、鮮血の色をした瞳がぬらりと不吉にきらめく様が、脳裏に焼きついていた。
(…我々は、大きな間違いを犯したのではないか)
とんでもない獣を、懐に招き入れてしまったのではなかろうか。