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踊る、ぬいぐるみ戦線

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『リヒテン・・・・・・これは、一体・・・』

『お兄さま、とても、よく似合っておられます・・・・・・! 』

昨年の、学園を上げての聖夜祭は仮装行列だった。
皆それぞれ趣向を凝らした衣装を身にまとい、それはそれは華やかな大成功の催し物となったものだ。 
―その中の“とある兄”以外にとっては。

自分はそれには参加せず、祭りに乗じて羽目を外す輩共を成敗しようと決め込んでいたスイスだったが、
実は一番身近にとんだ番狂わせが潜んでいたのだった。

妹が手ずから、しかも夜なべしてまでこしらえたお揃いの衣装を無下にできる兄が、果たして何処にいようか! そして
この日のVIP、優秀賞にはめでたくスイスとリヒテンシュタインの2人が選ばれ、翌月の校内新聞には
一面にでかでかと“仲睦まじいネズミ兄妹がVIPに”と称された、彼らの写真が掲載されたのだ。
校内の掲示板に堂々と張り出されたそれが新たに更新されるまでの一ヶ月間、スイスはなんとも形容しがたい心境で学園生活を送ることとなったのだった―

「あの時のお兄さまが、私 今でも忘れられなくて・・・・・・それで今日この子を見かけたら、つい・・・・・・」

抱えたぬいぐるみをうっとりと愛おしげに見つめ、抱きすくめるように頬擦りする妹。
その花びらのような唇が己の身代わりとも言えるぬいぐるみの額に触れた時、スイスはにわかに
顔から火の出るような感覚を味わう。

「・・・・・・あー・・・ お前が気に入ったのなら・・・・・良いのである・・・・・・」

微かに俯き目を逸らしながら、それだけ口にするのが精一杯な兄なのであった。
作品名:踊る、ぬいぐるみ戦線 作家名:イヒ