踊る、ぬいぐるみ戦線
「お兄さま! 」
日付が変わった頃、ようやく自宅へと帰還したスイスをリヒテンシュタインは出迎えた。
「・・・・・・リヒテン、先に休んでいろと」
私がお願いしたのにそんなこと と憔悴しきった兄の手を取り、リビングへと導く。見た目は小柄だが
実は屈強な彼には珍しく、憔悴しきっている。慣れないことを敢行したせいかもしれない。
おもむろにスイスが差し出してきた無地のビニール袋の中には“黄色い何か”が見える。
「・・・お兄さま・・・・・・」
冷えきった兄の指先を、リヒテンシュタインはそっと両の手の平で包む。
そういえば先程の連絡もひどく事務的に済ませてしまった気がする、やはり心配させてしまったようだ。
「・・・・・・お帰りが遅いので、まさか兄さまが
あの中のぬいぐるみの1体になってしまっていたら、どうしようかと」
「リヒテン、それは何の怪談話であるか?」
その大真面目な声音に苦笑しつつ、小さな手を握り返し、しゅんと俯く頭を頭をよしよしと撫でる。兄妹して
同じようなことを考えていた事実に内心苦笑しながら、ふとスイスは思う。
この妹に愛でられるというなら、ぬいぐるみになるのも悪くはない― いやいやいや。
「―ゴホン。で、何故こやつが気に入ったのだ。よく見かけるクマに見えるが・・・・・・」
「あっ、それはですね」
見てください兄さま とリヒテンシュタインはやおらぬいぐるみを抱え上げ、その上着のフードをすっぽりと被せてみせた。
ただの帽子代わりかと思いきや、その頭上には、まあるい耳が一対付いている。
「これは・・・・・・? 」
「ネズミです。・・・・・・兄さま、覚えていらっしゃいませんか? 」
その一言で、スイスは凍りついた。
それは、去年のクリスマス。
作品名:踊る、ぬいぐるみ戦線 作家名:イヒ