ナーバス
だが、手傷を負わせることはできた。
今度は、アキラが横から男の腹を狙う。長いリーチの武器は、自然に動きが制限される。ダンスのステップでも踏むように、男は横にそれる。シキの動きを追って、シキと目くばせする。二つの刃が、無手の男を追い詰める。――かかった。
シキが下から上に大ぶりな動きで斬り上げる。が、今度は後ろに下がって服を割いただけだ。
迷わず、アキラは踏み込む。大刀を片手で構えて、迷わず突きの動き。ス、ッと男が屈んでその動きをかわす。
――ここだ。
アキラは……もう片方の手に持っていたナイフを男に深深と沈めた。
肉を突き破る確かな感触。
そして、半歩引くが穿った場所が悪かったのだろう、大量の出血に、アキラはその血飛沫を浴びる。
自分と対の、呪われた血。
それでもなおゆらりと立ち上がろうとした人形のような男に、シキが留めの一撃を刺す。
男の胸から、長い日本刀が貫通して生える。
日本刀を軽やかに自在に操って、宿敵と戦うシキは――美しいと、アキラは思った。
不思議だ。シキと手合わせした時以上に高揚を感じる。
この男と、殺し合うのではなく、共に闘う。そんな生き方もあるのだ。
赤い瞳に見つめられる。
ずくん、と身体の奥が疼いた。
この気持ちになんと名をつければいいのだろう。憎くて憎くてたまらなかった相手。
なのに――
彼が、欲しい?
「フン」
刃を抜き取り、乱暴に血を拭って鞘に収めたシキが鼻を鳴らす。やはり、自分ひとりでPremierを倒せなかったことはシキの矜持に触れたのだろうか。
ならば、アキラの復讐は一部だが成功したのかもしれない。そんなことを感じる。
胸から下げた、ケイスケの形見のタグを握りしめる。
呪われた血が絶たれた。ならば。
「……俺を殺せ」
効果は違えど、自分にはNicoleと連なる非Nicoleという血が流れている。
酔いそうになるほどの血の匂い。
自分の最期は――
シキに、斬られるのがいいと漠然と思っていた。
「いいだろう」
白刃が振り下ろされる。一瞬の痛みにアキラは身構えた。
「……!」
目を見開く。
首の薄皮一枚を斬っただけで、シキはその刀を鞘におさめた。
「今からお前の所有者は……この俺だ」
「な……」
驚愕に二の句がつなげない。
赤い、赤い冷徹な瞳に見つめられる。