Dasein
和んだ雰囲気にケセセ、と笑えばルートヴィッヒも少し照れながらも微笑む。
「答えたくなかったらいいのだが・・・兄さんにもその・・・いるのか?」
「は?」
「だから、兄さんにも・・・・その、す・・・き、な奴がいるのかと聞いてるんだ。」
ルートヴィッヒはこの話題に恥ずかしさを感じるのか視線をそらしながら聞いてきた。
ギルベルトには最も答えずらいであろうことを。
(あぁ、いるぜ?ずっと前からな。弟なんて見れなくなった愛おしい存在が。)
「なんだ、ヴェスト。お兄様の恋愛事情が気になっちゃうのかー?」
「違う!さっきもあぁ言っていたし・・・兄さんにもそういう相手がいるのかと思っただけだ。・・・いるなら俺ばかり話すのは不公平だろう。」
言えない言葉の代わりにからかいの言葉を言えば
そっぽ向いたままの弟から気になっていると同義の言葉が返ってきた。
その声が少し悲しそうに聞こえるのはギルベルトの願望であろうか。
「(ヴェスト、俺はずっとお前が好きなんだよ。)」
「ん、今何か言ったか?」
ほとんど聞こえないほ程の声で囁けば、案の定聞き取れなかったルートヴィッヒは聞き返してきた。
「いや、なにも言ってねーぜ。俺様の話はまた今度な、ヴェストがどーしても聞きたいって言うなら話は別だけど。」
意地悪く笑って言えばルートヴィッヒは視線を逸らしたまま少し眉間に皺を寄せた。
「結構だ。俺はそろそろ残りの仕事を片付けてくる・・・いきなりすまなかった。だが助かった、ありがとう。」
「気にすんなって!で、また仕事か・・・しょうがねぇ、アスター達の散歩は俺様が行ってやるからヴェストも少しは休めよ?」
ルートヴィッヒの頭をポンポンと叩き立ち上がって背を向け玄関へ向かう。
「すまないな、兄さん。気をつけて。」
「おう、任せとけー。」
ひらひらと手を振ってギルベルトは愛犬たちを連れ外へ出て行った。
一人残ったルートヴィッヒはソファーから立ちあがることもせず天井を見上げている。
「俺個人の感情、か・・・。」
眼を閉じて思い浮かぶのは兄の優しい声
「兄さんは俺が好きなのは男で、兄弟で・・・・貴方だと告げても俺に笑いかけてくれるのだろうか。」
無理だろうな、と諦めたように笑う。
大切にされている自覚はある…しかしそれは弟としてだ。
ルートヴィッヒには兄弟では嫌だと思う反面、今の状況を壊す勇気はない。
好きな奴がいないとは言わなかった兄の言葉
思い浮かぶのは優しく綺麗な兄と長い付き合いのある女性の姿
(きっと兄さんはエリザベータが好きなんだろう。でなければ、あんな・・・あんなにも切ない顔をするだろうか。)
「兄さん、兄さんにとって俺は弟でしかなくても・・・俺は兄さんのことが好きなんだ。」
伝えたい相手のいない部屋でぽつりと呟く。
その瞳からは一滴の水が流れていた。
失いたくないから踏み出せない
自分にとっての唯一の存在