二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

サイハテ

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 
ゆっくりと、車椅子の把手を押し進める。
「思ったよりきつかったな……」
 二人で並んで歩いたときにはそうは感じなかったのだが。なにぶん、舗装されてない道はそれだけで負担になる。坂道なら、なおさらだ。
「ああ、でもやっぱり、また来てよかったな」
 潮風が、頬を撫でる。
「やっぱり、ここから見える海の色、おまえさんの瞳の色にそっくりだな、アキラ」
 覗きこんだ青い瞳は、しかし硝子球のように、ただ虚ろで世界を映してはいなかった。


 切欠は、些細なことだった。
「悪い」
 短い言葉で、アキラは侘びる。
「ハハ、これだけド派手な失敗も久々だな」
 源泉の仕事からの帰りを待つ間、時折アキラが食事を作るようになった。というか、させた。食欲……いや、あらゆる欲求に対して希薄な感覚しか持っていないらしく、一日の食事がソリド一食だけ、ということを平気でアキラはやらかす。
 家に帰ってきて、アキラがいるだけでもちろんそれはうれしいのだが使われた様子の無いキッチンを見るのは妙な寂寥感があるものだ。そのことをアキラに説いて、インスタントでもいいからまず、『食事を作って摂らせる』ようにさせた。そのうちに、自分のために食事を用意しないアキラでも、源泉とともに食べるためなら時折料理を作るようになった。
 ――ただ、そんな様子だから料理なんて今までろくに作ったことがないだろうと容易に予測できる経験のなさと、これももしかしたら欲の無さから来るのかも知れない、未発達としか言いようの無い味覚の持ち主であるアキラが作り出す料理だから、出来栄えについては言わずもがな、なものだったが。もっとも、そんなアキラが必死に料理を作ろうとする姿には、正直それはそれでそそられるものがある。そして、ここ数ヶ月そんなことを繰り返すうちにアキラにも多少はまともに作れる料理のレパートリーも増えてきた。カレーみたいな簡単な料理なら、レトルトに頼らなくてもきちんと野菜を切るところから作れるようになったのは、もう本当にすごい成長だと思う。
「すぐ、作り直す」
「いや、いいさ、今日のところはレトルトで我慢しよう。確か、まだ余ってたよな?」
作品名:サイハテ 作家名:黄色