サイハテ
仕事の以来を請けた帰り、取材内容について先方と話をつめていたところ思ったよりも帰宅が遅くなったところに待ちわびていたアキラとアキラの作った夕食は――正直、自分でもちょっと表現する術を持たないと思ったカレーのなりそこないらしき物体の詰まった鍋だった。
ただ、ふとなぜだかいやな予感がした。大きな塊を喉に引っ掛けて、しかし何とか飲み込んでしまった後のような小さな違和感と異物感。
「アキラ、おまえさん――」
いや、さすがに思い過ごしだろう。
「何だ?」
鍋を見つめて思い悩むアキラは、いつものとおり何も変わらない。
「いや、なんでもない。ま、たまにはこんなこともあるだろうさ。お前さんは向こうにいってちょっと休んでてくれ」
相変わらずの、努力の後のうかがえるキッチンの惨状。
そう、まるで料理の手順を一から忘れてしまったかの様子で無いとできないような――
「まさか、な」
小さく、一人ごちりながらとりあえずレトルトのカレーのパックを温めるための湯を沸かす。……無事だった鍋を発掘し、よくわからない調味料らしきものがぶちまけられたレンジ台を片付けながら。
……程なく、源泉はその違和感の正体を知ることになる。
明らかに、アキラの言動がおかしくなった。
「非Nicoleのせいなのか」
切り出したのは、アキラのほうだった。
「――!」
ここまで単刀直入に切り出されては、誤魔化しようもない。
返す言葉を探しあぐねていたところに、アキラのほうが言葉を続ける。
「ひとりで何かこそこそやってて、俺を仕事のアシスタントにあまり連れ出さなくなって、長期の仕事や多くへ行くようなことを避けるようになって、おまけに俺の前で吸う煙草の本数が減ったらなにかあるって思わないほうがおかしい」
呆れたように、ため息をつく。実際、体の変調については本人が一番感じていた節もあるのだろう。
「言うようになったじゃないか」
「……誰のせいだ」
睨まれた。
「そりゃどーも」
胸元のポケットを探る。一服したいと思って……けれど、やめた。
なるほど、こういう態度にアキラはいぶかしんでいたわけだ。
「……死ぬ、のか?」
それもまた直球すぎる質問に源泉は一瞬当惑して、しかし、ふむ、といったん悩むように呟いてから唐突に問題を付き出した。
「アキラ、今日は何年何月何日だ?」
「……?」