回帰
だがそれはおそらく、自分も同じなのだ。シーザーもまた、誰も通れぬ道をひとり行く者なのだ。
待つのに飽きた人外が、投げつけられた本を掲げ、行くぞと声をかける。アルベルトはうなずき、人外の立つ床から放たれる光の文様の中に足を踏み入れた。
シーザーは、ゆっくりと立ち上がって、兄の背中をみた。
「行くのか」
「ああ」
それは馬鹿みたいな質問だったが、アルベルトは振り向かないままでも真摯な返事を寄越した。兄はいつでもこうだった。シーザーの投げかけたことに、答えを返さなかったことはない。
「また戻ってくるのか、って、聞いても無駄だろうな」
「用があれば帰ってくる。なければ来ない」
「俺もいつか、あんたと同じとこへ行けるのか?」
「おまえは来なくていい」
「アルベルト」
「なんだ、シーザー」
強くなる光に、溶けかけながら、アルベルトは少し振り向いた。シーザーは、おそらく近年で最高の、改心の笑みを浮かべた。
「酒のことはじいちゃんに言いつけとくからな」
たぶんアルベルトは笑ったかもしれない。光に包まれて、見えなかったけれど。
円陣が消えたあとには、ただ静かな夜が残った。シーザーは立ちすくんだまま、窓枠の言い訳はどうしようと、考えていた。いいか、ぜんぶ兄貴のせいにしちまおう。酒の分も含め、次に帰ってきたときに、こってり叱られればいいのだ。