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日本の家に遊びにきました

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うだる暑さにだれつつ、虫対策に蚊取り線香をくもらせてから窓を全開にしていた日本の耳に玄関の引き戸を叩く音が届いた。朝方水撒きに出たときですら直射日光が肌を焦がすようにじりじりと痛んだというのに、既に太陽が南中している今その日光の強さは一体どれほどのものか。日本はまだ見ぬ訪問者を待たせぬように玄関へと急いだ。
「すみません、お待たせいたしました」
ガラガラとその戸を引いたとき、日本の目の前に立っていたのは中国だった。顔中汗がだらだらと流れているものの、何故か胡散臭いと感じるほど爽やかな笑顔をたたえている。その異様な光景に日本は長年の付き合いから嫌なものを感じ取ったものの、時既に遅かった。
「やぁ日本。さっそくだけどここにしばらく邪魔するあるよ」
予感的中。日本は暑さからくるものだけではない眩暈を感じてクラリと身を崩しそうになったがここは堪えどころと心に気合をこめて踏みとどまる。
「すみません、もう一度おっしゃっていただけますか?」
「まったく日本は耳が遠いあるな。ちょっと家がゴタゴタしてるから少しの間住まわせるある」
「邪魔するって滞在するって意味ですか!?ちょっと、困りますよ!」
「ちょっとしか困らねーなら別にかまわねーあるよ」
「そういう意味ではないです」
「ごちゃごちゃうるさいある!」
暖簾に腕押し、中国に問答。昔の彼はこうではなかった…と嘆く日本だが、確かに中国が困っているのは事実のようだったので、渋々日本は承諾の意を表した。そうでなければ年下には良いかっこしいの中国が自分を頼ってくるはずもない。だが正直なところ家を出ざるをえない彼の事情への同情もあり、口で言うほど日本は嫌ではなかった。渋ってみせたのもある程度嫌がる振りをしておかないと今後中国をのさばらせてしまうと考えた上でのことだった。もっとも中国にはそういった気遣いは通じなかったが。

「で、暮らし始める前にお前に言っておきたいことがあるよ」
玄関先でのやり取りがひと段落つき応接間で程よく冷えた緑茶を中国に勧め、彼が青く光る江戸切子に口をつけたのを確認してから日本も喉を潤す。その冷たさにホッと人心地ついていると、一気に茶を飲み干してグラスを机に叩きつけた中国は口を開き先の言葉を話した。日本は軽く頷くことで先を促す。
「まず、我より先に起きるある。我より先に寝てもいけない。飯もうまく作るある」
「あなた何処の関白亭主ですか!そのあとはさしずめいつも綺麗でいなさい、とでも続くんですか?」
「別にそれはいいある」
「…どういう意味です」
「綺麗でもそうでなくてもお前は大事な弟あるよ」
思わず日本は中国の顔をまじまじと見てしまったが、その表情に他意はなく純粋に言葉通り捕らえてよさそうだった。
まったく。日本は嬉しさで綻びそうになる口元を誤魔化すようにため息をそっと零す。しかし彼の眦は垂れ下がり歓喜を隠しきることはできていなかった。
「喜んでいいのやらそうでないのやら…」
「だから我は家のことなんもしないある」
「…結局、それが言いたいだけですか!」
先ほどの感動を返せとばかりにその後言い募ったおかげで、なんとか買出しだけは彼に任せることが出来た日本だった。
「あ、日本。早速今日から邪魔するあるから明日ちゃんと我のこと起こすあるよ」
「はいはいわかってますよ、ちゃんと朝ごはんも準備しておきます。ちなみに朝何時には家を出る予定ですか?」
その返答はいつも日本が家を出る時間より一時間も早いものだった。内心面倒だと思ったけれども、今晩のうちに朝ごはんの仕込みをしておいて、洗濯機も夜のうちに仕掛けておけばそれほど苦労はしないで済みそうだった。
「わかりました、ちゃんと起きてくださいね」
日本の言葉に中国は至極当然とばかりに、うむと一言発した。

そして数日は特に問題もなく過ごしていた二人だったが、とある朝のこと。
ふと目を醒ました日本は毎朝そうするように枕元に置いてある目覚まし時計を見た。その針がある位置は起床時刻よりも半時間ほど早かったのだが、常ならば動物の気配もしないほどの薄暗い時間帯だというのに外では盛んにすずめが鳴き、アブラゼミも気忙しそうに鳴き散らしていた。半覚醒状態でつらつらといやに今日はセミが気忙しいですねと考えていた日本は、ふと嫌な予感に包まれ時計を凝視する。
秒針……動かない。
体内の血液が逆流するように一気に覚醒した日本は慌てて別室にある時計を見に布団を跳ね飛ばす。コッコッと振り子が揺れる時計は中国が家を出なければならない時間の四半時間前を指し示していた。
急ぎ中国を起こしてぐずる眠気眼の彼を洗面所に追いやり、彼が戻ってくるまでの間に今日彼が着る服を用意し、厨房で握り飯を作り終える。これならば出先でも摘めるので朝食の代わりになると考えた日本のとっさの気遣いだった。
「中国さん、服準備しておきましたからそれに着替えて下さい!」
まだ事情が掴みきれてない中国を急かし、鞄の中におにぎりと昨夜のうちに用意して冷やしておいた弁当をつめる。そして冷蔵庫を開けたときに一緒に出しておいた麦茶をコップに注ぎ、ちょうど着替え終わった中国に手渡した。
「お、用意がいいあるね」
「本当に用意がよければ寝坊なんてしません・・・」
常にない失態に落ち込み今にも頭を抱えてしゃがみこみそうな日本がぼそりと呟く。
「そうあるか?でも我は間に合いそうだし、問題ないある。それに時間に遅れてもどって事はないあ」
「ありますから!もう時間です」
日本は中国からコップを受け取ると彼の鞄を持ち玄関まで中国を追い立てる。
「気忙しいあるね・・・」
「貴方が余裕がありすぎるんですよ。ではいってらっしゃい、今日も暑くなるのでお気をつけて。あ、朝ごはん代わりにおにぎり握ってあるので時間あるときに食べてくださいね」
うむ、と中国はうなずくとカチャカチャと引き戸の鍵を開けて家を出て行く。その光景だけはいつも通りの朝だった。ガラガラと戸の閉まる音で人心地ついた日本がため息を零して今度は自分の準備をしようと台所に向かう。出しっぱなしだった容器から麦茶を自分のコップに注ぎ、一気に飲み干した。どうやら自分で思ってた以上に疲れていたようだ。じんわりと汗をかき始めた麦茶の容器を冷蔵庫にしまおうと扉を開いたところで日本は牛乳が切れていたことを思い出した。中国に買出しを頼もうと昨夜のうちに買い物リストを纏めていたのだが、先ほどの慌しさですっかり渡し忘れてしまっていたのだった。
「あー、しまった…」
またの失態に眉根を寄せた日本だったが、メールで送ればいいかと思い直しリストを片手に手に携帯電話を探しに寝室へ向かった。


その日の昼、日本の携帯電話にアメリカから着信があった。また面倒な用事かと顔を渋らせ出来れば見なかったことにしましょうか、と咄嗟に日本は考えた。だが震え続ける携帯電話越しに存在を強く主張するアメリカの姿が透けて見え、ため息を零しながらも通話ボタンを押さざるを得ない日本だった。
「あーもしもし日本―俺―!今夜そっち遊びにいくからよろしく頼むよーパーティーしようパーティー!」
作品名:日本の家に遊びにきました 作家名:ban