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日本の家に遊びにきました

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日本から食器を布巾で拭きながら中国を見ることなく掛けられた言葉に込められたわずかな非難にムッとした彼はガジガジとタオルで髪を掻きながらぼそりと「お前は小姑あるか」と呟いた。中国としては日本に聞かせるつもりはなかったが、生憎その呟きは日本の耳に届いてしまった。その言葉に食器を拭く手がピタリと止まった日本はギギギと蝶番が錆びついたドアのようにゆっくりと首を中国へと向ける。
「…なんですって?誰のために私が毎晩毎晩弁当を作ってると思ってるんですか」
据わった声で先よりも遥かに非難の色を強める日本に中国は謝る機会を逃してしまった。元々彼の頭の中の辞書に謝罪という言葉があるかどうかははたまた謎だったが。
プイと日本から顔を背けて、中国は険の立った声を上げる。
「別に我は頼んでねーある」
「じゃあ無くてもいいんですね?お弁当」
「・・・かまわねーある。当然あるよ。日本のしみったれた薄味のメシなんて毎日食ってらんねーある」
「っ!貴方の家こそ毎晩毎晩あんな脂っこいもの食べて!メタボになっちゃいますよ!」
『・・・・・・』
些細な非難に反応した中国の軽い悪辣からいまや二人の間には険悪な雰囲気が立ち込めていた。お互い言い過ぎた、という思いはあったが勢いのままに出てしまった言葉は既に取り消せない。ましてや中国としては年下の日本に謝ることはできず、日本としてもいつも譲歩するのは自分だという思いがあったので日本もまたすぐに謝ることはできなかった。しばし沈黙が続いた後、日本は台所でもくもくと手を動かし始め、それを確認した中国は洗面所にそそくさと戻っていく。中国の姿が見えなくなると日本は深くため息をついて皿を食器棚へと置いた。その際にガチャンと音を鳴らしてしまい、いつもなら気にならない音だというのに今はそれがやけに日本の耳に障った。

困りましたね…。そうは思うものの日課となっている緑茶を入れる日本の手は止まらない。いつもならば風呂上りの中国との団欒の時間になる今、先ほどの喧嘩というには悲しいほど惨めな言い合いが尾を引いている。一応中国は居間にいるものの言葉がわからないはずのテレビをじっと睨むように眺めて日本を見向きもしない。今はまだお湯を沸かすという名目で中国と離れていられるが薬缶は刻一刻と水蒸気を吹き上げ始めている。嫌だ嫌だと日本が思ってもガスコンロは実に優秀で、素早く水を湯へと変えてしまう。あっという間に緑茶を入れるのに適温になってしまい、急須に注がざるを得ない状況になってしまった。
(ここまできてお湯を捨ててしまうとガス代と水道代が勿体無いからお茶を入れてあげるんですからね!別にお茶を入れることで中国さんに許してもらおうとか考えてるわけじゃないんですからね!)
誰に聞かせるとでもなく心の中で意気込んだ日本は二つの湯のみに程よく煮出された緑茶を注ぎ、一声かけてから未だにこちらを見ようともしない中国の目の前に一つを置くとその隣に自分の分を置いた。その際も中国は微動だにしない。日本はやはり自分から謝らないとこの険悪なムードは解消されないかと湯飲みを握り締め内心深いため息をつく。
(毎度のこととはいえ喧嘩をするたびに私から折れるのも癪ですが、私さえ我慢すればいいことですし…。)
あくの強い兄弟を持つ日本は妥協をすることにすっかり慣れてしまった。今回もまた自分から謝罪しようと日本が口を開く。
「あの…」
「今日は」
だがその声に被さるようにじっと前を見据えたままの中国が話し始めた。日本は俯いていた頭を思わず上げ、次に中国が何を言うのか、彼の口元をじっと見つめる。
「遅刻しないですんだある。お前が握り飯を作ってくれてたおかげですきっ腹のまま仕事せずにもすんだある。それに今日は色々…風呂のこととかニンジンのこととか教えてくれたある。だからその礼を兼ねて、弁当ぐらいは洗ってやってもいいあるよ」
プッ。その何かが破裂するような音が聞こえてきて咄嗟に中国は日本へと目を向けたが、その先で彼は湯飲みを握り締め肩をプルプルと震わせていた。時々呻くような押し殺した笑い声が漏れて聞こえる。
「日本、笑うか我慢するかどっちかにするある。中途半端は一番気持ち悪いあるよ」
「…っすみませ…っぷ……ひっ…はぁ。……もう大丈夫です」
「全く失礼な弟あるよ」
「だって中国さんが珍しいこと言うから…」
「いい年こいて「だって」だなんて使うんじゃねーあるよ」
「はいはい」
「はいは一回で十分ある」
「…はい。では中国さんお弁当箱を持ってきていただけますか?どうせ洗い方なんてわからないでしょうしお手伝いしますよ」
「余計なお世話ある、と言いたい所あるが今の吾は寛容なので笑って許してやるある」

中国が弁当箱を洗うところを見届けた日本は風呂に入った。洗剤の泡を流そうとしなかった中国に自分の家のやり方を教えるのに手間取ったものの、先ほどの険悪な時を思えば日本は話が出来るだけで遥かにましだと思えた。
一日の疲れを取るようにゆっくりと湯船に使っていたので、風呂から上がったときには小一時間程経っていた。風呂に入る前に布団は敷いておいたので中国に関しては心配ない。この後日本には明日の朝飯の仕込みと彼の弁当の用意が残っている。最初は面倒だったこの仕込みも今では負担に感じず、寧ろ誰かが居る生活を思えば実に楽しいものだった。
服を調え台所に向かう。途中にある客間で中国が寝ているかチラリと確認したところ布団は盛り上がっておらず、それは日本が整えたまま乱れていなかった。
「まだ起きてるんですか?」
居間で声をかけたものの返ってくる声はない。見れば机の下に足を突っ込む形で寝息を立てていた。
「中国さん、いくら夏でも布団で寝てください。風邪引いても知りませんよ」
そう声をかけ体を揺り動かしてみるものの起きる気配はない。全く仕方ないですね、と日本は零すと客間から布団を持ってきてそれを中国に被せてやる。
「明日節々が痛いと言っても知りませんからね」
私もそんなに若くはないんですけどね。聞こえていない忠告をする日本の表情は何故か晴れやかで、一日の行事を全て終えた日本がこの後彼の隣に潜りこむだろうことが見て取れた。

深夜。鈴虫が鳴き狂う夜にむくりと二人が寝そべる布団が盛り上がった。
「謝謝」
その影はそれだけを言うと深く寝入る人影を抱きかかえ、その館の主の寝室へと向かった。
作品名:日本の家に遊びにきました 作家名:ban