宴の前に
食料と物資補給のために寄航した島だったが、うまい酒でもないかとゾロもさっさと船を降りた。出航は夕方だという。陽はまだそれほど高くなく、酒屋に入るにしろ酒を買ってぶらつくにしろ、時間はたっぷりある。右を見ても左を見ても、前を見てもずらりと立ち並ぶ市場を見渡しながら、ゾロはずんずんと歩みを進めた。
島の特産だという果実酒を手に入れ、それを飲みながら歩くうち、気づけば周りに店など一軒もなくなっていた。辺りを見渡せば、民家がまばらに建っているだけだ。さすがに中心街から外れてしまったと気づいたゾロは、もと来た道を戻ることにした。
そしていま、ゾロは森の中に迷い込んでいる。近道をしようとしただけなのに、どうなってやがんだこの島はと、自分の方向音痴をまるで自覚していないゾロは、土地のせいにして悪態をついた。
木々が立ち並ぶ森ではあったが、鬱蒼としているわけでもなく、生い茂る葉の間から暖かな陽射しが降り注ぐ。見上げれば陽はだいぶ高くなっていた。そこで初めて空腹を覚えたゾロは、とりあえず近くにあった大木の、土を力強く盛り上げ張られている、たくましい根に腰を下ろした。
背負っていたリュックには、弁当と水筒が入っている。いらないと言ったのに、いいから持って行けとなかば強引にサンジに詰め込まれたものだ。もしやこうなることを見越してのことかと悔しい思いがしたが、サンジが持たせた弁当の中身はゾロの好きな握り飯で、それを食べるうち、そんなことはどうでもいいように思えてきた。
(……マメなやつ)
握り飯の具は様々だったが、どれもゾロの好物だった。水筒にはぬるめの焙じ茶が入っていて、舌や喉を火傷するようなこともなかった。
普段から馬が合わず、いちいち突っかかってくるくせに、気に食わない自分が相手でもこういう気配りをするところはさすがだとゾロは感心する。コックという職業がそうさせているというよりも、もともと彼の性分なのだろう。
すべてたいらげ、そろそろ行くかと腰を上げようとしたとき、人が近づいてくる気配がした。
露出した木の根や湿った落ち葉などに足を取られるのか、ときどき「クソッ」という声が聞こえる。土を蹴り葉を踏みしめる足音は明らかに急いていた。聞こえてきた声はサンジのものだったから、ゾロは船に何かあったのかと慌てて立ち上がった。
「コック!」
自分はここだと知らせるために、近づいてきたサンジへ向かって声を張り上げる。サンジはすぐに気づき、無言のままゾロの元へと辿り着いた。
どれだけ急いでいたのか知らないが、サンジは膝に両手をつき、下を向いて肩どころか全身で息をしている。ひゅーひゅーとつらそうな呼吸音に、ゾロは思わず「飲め」と水筒のお茶を差し出した。サンジはそれを一息に飲み干し、ぶはーっ!と大きく息を吐く。
「ゾロ!」
そして、まだ整わぬ息のまま、ゾロの両肩にがしりと手を乗せ、
「おまえ、もうすぐ、誕生日って、マジで!?」
まだ整わぬ息を懸命に継ぎながら、サンジはすごい剣幕で詰め寄った。
島の特産だという果実酒を手に入れ、それを飲みながら歩くうち、気づけば周りに店など一軒もなくなっていた。辺りを見渡せば、民家がまばらに建っているだけだ。さすがに中心街から外れてしまったと気づいたゾロは、もと来た道を戻ることにした。
そしていま、ゾロは森の中に迷い込んでいる。近道をしようとしただけなのに、どうなってやがんだこの島はと、自分の方向音痴をまるで自覚していないゾロは、土地のせいにして悪態をついた。
木々が立ち並ぶ森ではあったが、鬱蒼としているわけでもなく、生い茂る葉の間から暖かな陽射しが降り注ぐ。見上げれば陽はだいぶ高くなっていた。そこで初めて空腹を覚えたゾロは、とりあえず近くにあった大木の、土を力強く盛り上げ張られている、たくましい根に腰を下ろした。
背負っていたリュックには、弁当と水筒が入っている。いらないと言ったのに、いいから持って行けとなかば強引にサンジに詰め込まれたものだ。もしやこうなることを見越してのことかと悔しい思いがしたが、サンジが持たせた弁当の中身はゾロの好きな握り飯で、それを食べるうち、そんなことはどうでもいいように思えてきた。
(……マメなやつ)
握り飯の具は様々だったが、どれもゾロの好物だった。水筒にはぬるめの焙じ茶が入っていて、舌や喉を火傷するようなこともなかった。
普段から馬が合わず、いちいち突っかかってくるくせに、気に食わない自分が相手でもこういう気配りをするところはさすがだとゾロは感心する。コックという職業がそうさせているというよりも、もともと彼の性分なのだろう。
すべてたいらげ、そろそろ行くかと腰を上げようとしたとき、人が近づいてくる気配がした。
露出した木の根や湿った落ち葉などに足を取られるのか、ときどき「クソッ」という声が聞こえる。土を蹴り葉を踏みしめる足音は明らかに急いていた。聞こえてきた声はサンジのものだったから、ゾロは船に何かあったのかと慌てて立ち上がった。
「コック!」
自分はここだと知らせるために、近づいてきたサンジへ向かって声を張り上げる。サンジはすぐに気づき、無言のままゾロの元へと辿り着いた。
どれだけ急いでいたのか知らないが、サンジは膝に両手をつき、下を向いて肩どころか全身で息をしている。ひゅーひゅーとつらそうな呼吸音に、ゾロは思わず「飲め」と水筒のお茶を差し出した。サンジはそれを一息に飲み干し、ぶはーっ!と大きく息を吐く。
「ゾロ!」
そして、まだ整わぬ息のまま、ゾロの両肩にがしりと手を乗せ、
「おまえ、もうすぐ、誕生日って、マジで!?」
まだ整わぬ息を懸命に継ぎながら、サンジはすごい剣幕で詰め寄った。