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無意識にだろう。
休憩を言い渡され、ぼんやりとしていた俺の目に飛び込んできた少年は、
ショーウィンドウを見やり、そこに映る自分から、目をそらした。

「くだらねぇこと気にしやがって」

少年の身体を這う、タトゥー。
浅葱の蛍光色の縁取り。
計算されつくした、美しい紋様。
首の後ろに突き立つ、鋭利な黒い牙。
潤んだような水分の多い黄金の瞳・・・。
どっからどうみても、悪魔で・・・それでいて、人間の核を持つ男。

ダンテは、立ち上がり足早に少年を追いかけた。
そして、すばやく隣に並ぶと、ガシッと玲治の肩に手をまわし、体重をかけた。
「うわっ!何すんだよ!」
「しけたツラしてるから、気合いいれてやってんだ」
「っつか、重い!重い!クソアメリカン!」
「あぁ?」
語尾を上げ、ますます体重をかけてくるダンテに玲治は足を踏ん張った。
「っつか、まじ重いっつの・・・!」
「ったくやわだなぁ」
言いながら、ダンテが腕をどけると、玲治は大げさにため息をついてみせた。
「あんたのその刀・・・じゃなくて剣?それだけでもめっちゃ重いっつの」
そういって、ダンテが後ろに背負った巨大な剣を指差す。
ダンテはそれを肩越しに見つめ、小さく肩をすくめた。
「慣れればどうってことはない。」
「俺は慣れる気ないから」
「拳だけで十分ってか?」
ダンテがからかうように言うと、その裏の意味に気付いて、ダンテをにらみつけた。
「拳で殴るのにも別になれる気はないよ」
鼻息も荒く顔をそらす玲治に苦笑し、ダンテは相棒の肩に手を置いた。
「何だよ」
あからさまに迷惑そうな玲治に、ダンテはにやりと笑う。
「な、暇ならちょっと付き合わないか?」
「はぁ?俺、別に暇じゃないし」
「どうせ、アイテム買ったりするだけだろうが」
「それと、情報集めとかあるの。あんたそういうのに関しちゃ全く役にたたねぇし」
「じゃ、いくか」
ダンテは都合の悪いことはきっぱりと無視し、玲治の腕を引き、今まで向っていた方とは逆方向に進む。
玲治は、何か言おうと口を開きかけ、結局何も言わずにため息をついた。
何を言っても無駄・・・それが今の状況だった。

ダンテが玲治を引きずるようにして入ったのは、廃墟とかした宝飾店。
ショーケースは割られ、中身はなにもない。
顎から下、胸元から上のマネキンだけが綺麗に陳列してある。
荒れた店内だから似合うダンテだが・・元は宝飾店・・・それを考えると、玲治としては首を傾げるばかり。
だが、ダンテは慣れた様子で、再び玲治を引きずりカウンターの奥の扉を開き、そこにある階段を上った。
狭い階段で、二人は縦になって上る。
ついた先にはまた扉があり、今度はダンテは蹴破るようにしてその扉を開けた。
そこは多分、宝飾店の事務所と使われていた場所だろう。
比較的綺麗で、引っ越した後・・・程度の散らかりで澄んでいる。
ダンテはその事務所をまたつっきり、もう一つの扉をあけ、また上へと続く階段を上る。
「一体どこにつれていくきだよ」
流石に不審になり、聞くが、ダンテは黙ったまま上っていく。
そして、突きあたりの部屋を今度は手を伸ばし、ノブをまわしてあけた。
そこは、多分、社長室。
重そうなテーブルとそれを囲むようにソファ。
そして、奥に立派なデスクがあった。
左右には、まるで学力をひけらかすような本の山。
奇跡的に・・・かどうかは知らないが、全く、綺麗なままに残っているそこに玲治は少しだけ驚いた。
ダンテはそんな玲治の手を放し、社長用のデスクの向こうに入り、そして引き出しをあさり始める。
「だ・・・ダンテ!何してるんだよ」
「何って、物色だろう」
「物色って・・・泥棒じゃないか!」
「今更なにいってんだよ。ここの持ち主はとっくにおっちんじまってるよ」
「だからって・・・そういうのはちょっと・・・違うと思う・・・」
玲治の語尾が、曖昧に、自信がなくなっていくのは、自分でもそれが正しいのかどうなのか判断に迷ったからだろう。
ダンテは、そのことにきづき、引き出しを探りながらにやりと笑った。
そして、目的の物をみつけると、それを玲治に放る。
「えっわっ!」
いきなり投げつけられたそれを、訳が分からぬままに受け取ると、それは、時計。
「は・・・?」
金の丸い懐中時計。鎖が長く輪を作っている。
そして、それは、東京が本当の意味で時を刻むのをやめた今でも、カチカチと正確に動いていた。
玲治の体内時計では、今は夕方の4時というような時間の感覚だが、時計が指しているのは11時30分。
昼なのか、夜なのかもわからないが・・・なんとなく懐かしいものに触れたような気分になる。
「首からかけてみろよ」
「・・・懐中時計って・・・ポケットにいれるものじゃないの?」
「いいから」
そういって、ダンテはデスクに飛び乗り玲治のそばによると、懐中時計を奪うように取り、玲治の頭を通す。
もちろん、首の後ろの角には十分に気をつけて。
懐中時計は、みっともなく、玲治の腹のあたりまで下がる。
ダンテはそれを見、首を傾げ、微妙だなといった。
「当たり前・・・。」
自分で鏡を見るまでもない。
鏡・・・思い出して、玲治は少し憂鬱になり、懐中時計を首から外した。
そして、ダンテに返そうとすると、ダンテはすでに彼の横にはなく、またデスクの向こう側でがさごそとやっている。
何をしたいのかと聞く前に、また何かが飛んできて、玲治が受け取ると、それはネックレス。
プラチナのシンプルなもの。
「つけてみろ」
「はぁ・・・?」
「いいから」
今度は、デスクの向こう側に立ったまま言う。
「あのな・・「つけてみろ」」
有無を言わせないダンテに、玲治は首をふり、首にはめるのではなく、首のあたりに抱え上げて、”つけた感じ”をダンテに示す。
ダンテは少し考えるようにまた、首を傾げる。
「そこに・・・ドアのとこに、鏡あるだろ?見てみろ」
そういわれて、玲治が振り返ると、入ってきたドアには、姿見の鏡が貼り付けてあった。
鏡・・・見たとたんに、玲治の顔が曇る。
そして、ろくすっぽ見ないままにダンテを振り返った。
「似合わないよ」
「そうか・・・参ったな。少年に合うってのはなかなか難しい」
そういって、また机を探るダンテに、玲治は、
「結局何がしたいんだ?」
と尋ねた。
すると、ダンテは、一度、手を止め・・・そしてまた手を動かす。
「わけわかんねぇ・・・」
小さくつぶやき、ダンテの奇行を見ていると、ダンテが何かを見つけたのか、何かを手にもって、デスクを越えて玲治のそばによった。
「これこれ、コレなら、合うな」
そういって、ダンテが人差し指と親指につまんだものを見せた。
燃えるような赤い光を放つ一粒の宝石。
「は・・・?」
「ピアスだよ。これならいくらなんでも合うだろう?」
そういって、ダンテは玲治の肩に手を置き、身体をくるりと回転させ、鏡を見させる。
嫌な顔をする、玲治を無視し、その小さなピアスを玲治の左の耳たぶにかざした。
「ほら、これならぴったりじゃねぇか」
鏡に映る、人の形を持ちながら、人とは全く違う姿をした自分から玲治が目をそらそうとすると、ダンテの右手が玲治の後ろを回って顎を掴み、顔をそらさせない。
「ダンテ!」
作品名: 作家名:あみれもん