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コールタール

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アリスには自傷癖がある。
何もリストカットの趣味があるとか、はさみで皮膚を切り刻む趣味があるという話ではない。
だが、あいつはメンタルな部分で自分を傷つける癖がある。
それは俺に似ていて、舌打ちをしたくなるほど憎々しい。
俺たちの間に横たわるもの。
その名は友情でも腐れ縁でもなく、同族嫌悪というコールタールのような川だ。
彼はリスクを嫌う。
彼は美しい世界を愛する。
俺は口にだしたことは無いが、大学時代、あいつが書く小説が嫌いだった。
アリスはリスクを嫌い、ひび割れた壁に嘘を流し込んだ。
そして嘘に侵食された壁がもろくなるのをじっと見つめていた。
崩壊を待つかのように。
俺はアリスが終末を待つ信者のようだと思う。
すぐ近くに終わりが来ているのを信じて疑わない。
もし、それが与えられないなら、嘘で塗り固めた壁に自らパイプ椅子を叩きつけ、まっさらにしてしまうだろう。
壊れた壁の向こう側にアリスは何をみるだろう?
俺にはわかる気がする。
俺はそれを覗いたことがあるからだ。
俺はそれを見て引き返したが、アリスはその先を確かめぬままに壁を壊す。
境界を壊したアリスは、『降りる』。
推理小説家から降りる。
有栖川有栖から降りる。
そして、生から降りる。
俺はそれが許せない。
アリスが俺を許せないように。

作品名:コールタール 作家名:あみれもん