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お誘い

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俺は、その男が階段教室に入ってきたのを横目で一度見て、気付かぬ振りをした。
授業時間はすでに半分を消化している。
男はこそこそと一番後、一番窓際の席に腰を降ろす。
それを確かめてから、俺は読んでいた教科書を置き、学生を見渡した。

「では、先週から予告していた小テストを行う。」

言った途端、皆からため息が漏れ、少しざわついた。
ちらりとアリスを見ると、彼はにやにや笑っている。
自分には関係ないと思っているのだ。
だが、甘い。

「予告はしておいたから簡単なはずだ。答案を提出したものから退出していい」

言って、俺は普段は学生に任せるテスト用紙を一枚一枚配って歩いた。
はっきりいって、かなり難易度の低い問題。
おそらく皆10分ほどで解けるはずだ。
配る端から、シャーペンの走る音がする。
アリスの元にくると、彼はちらりと俺を見た。
“おれはええんやろうな?”
それに俺は小さく首を振る。
“ダメだね”
言って、俺は一番後ろに重ねていた髪をアリスの手元に置いた。
教卓の前に戻って皆を見渡す。
一人を除いて、皆はカリカリとペンを進めている。
そう、一人以外は。
その一人というのは、言うまでも無くアリス。
彼は、小さく口を開いて、問題用紙を見ている。
表現すれば、“まぁ、一体これはなんなのかしら?”というような顔だ。
両手でそれを持って、首をひねる。ついでこちらを見ようとしたので、俺はすかさず視線をそらした。
俺は結局知らん顔をして、最初の答案提出者を待った。
まもなく、つぎつぎと答案用紙が提出され、一人ずつ人が減っていく。
最初の答案が提出されてから10分とたたないうちに全員が退出してしまった。
あぁ、忘れていた。
もちろん、俺とアイツを除いて・・・だ。
静かになった教室で、俺は資料をそろえ、それを小脇に抱えてゆっくりとそいつの元に歩いた。
アリスは視線で紙に穴があくと信じているようにじっと問題用紙を睨んでいる。
それから、俺が近くに歩いていることに気付くと、恨みがましい目を俺に向けた。
俺はすました顔でそれを無視し、彼の座る席、机の方に腰を降ろした。
「そろそろ、俺も研究室に戻りたいんだが?有栖川君?」
「・・・・俺かて、もう帰りたくなってきたわ・・・」
「答案を出してからにしてくれたまえ」
「・・・・絶対、俺のだけ問題ちゃうやろ?」
唸るような声だが、全く恐ろしくは無い。
上からにやにやと笑うと、悔しそうな顔で睨まれた。
「なんやねん・・・この万有引力を具体的な例を使って説明せよ・・・いうんは!
 いつから君は力学を教えるようになったんや?!」
「簡単だろ?」
「どーーーこーーーがーーーぁやぁ!」
言って、アリスは両手で机をバンバンと叩いた。
それからドンっと額を机につけて黙り込む。
それに、気付かれないようにふっと息を噴出し笑った俺は、アリスの頭に手を置いた。
拗ねた子供を慰めるように、くしゃくしゃと撫でてやれば、アリスは機嫌のわるい子犬のように唸った。
ぽんぽんと軽く叩くと、わんと鳴いた。
しばらく、彼の髪をいじるが、もうアリスは反応を返さなかった。
完全に拗ねたのかもしれない。
俺は、懐から煙草を取り出し口に咥える。すると、すかさず飛んでくる声。
「校内禁煙やぞ」
「咥えるだけだ」
「ふん」
一度上げた顔をまた、つっぷしたアリス。
「っつーか、手ごろな例がすぐ傍にあるだろう?」
「んー?」
「万有引力」
「なんやねん?」
窓のほうに向けていた顔を、こちらに向ける。
俺はにやりと笑ってやる。
「俺とお前。」
用意していた言葉は、
「なぁ・・・もしかして、君、めっちゃ恥ずかしいこと言うてる・・・?」
思ったような効果を見せなかった。
半ば、そうなるとは思っていても、少し残念に感じる。
万有引力・・・二つの物体がお互いに引き合う力・・・。

作品名:お誘い 作家名:あみれもん