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あなたとわたしでポッキーゲーム!

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放課後演劇部部室には女子部員だけだった。というのは、サリナが二人だけの男
子部員に過去の演劇部の舞台を参考にするのに必要な、台本や資料を取りに行か
せたからだ。他愛もない話に華を咲かせていると、テーブルに何袋かのポッキー
と紅茶ポット、カップが置かれる。
「男子が戻ってくるまでお茶にしましょうか」
「あ、ポッキー!流石部長ぬかりないです!」
「ぬかりない・・・?」
ヤマスガタが目をきらきらさせながらポッキーをつまむ。
「今日はポッキーの日なんですよ、ワコ様」
ヤマスガタの隣に座るスガタメが笑顔で答えつつポッキーをかじる。よく焼けた、
チョコにコーティングされたプレッツェルがぱきっと音をたてた。
「そうそう、だから今日ワタナベさんがポッキーゲームをしかけてたのよ、そこ
 らの男子に」
「あ、そういえばやってた・・・!そういう事だったんだ〜、へぇえ・・・」
ポッキーの日だろうとなかろうと、甘いモノ好きなワコはポッキーも好きでよく
食べるので、あまり意識してないせいか特別感がいまいち沸かなかったが、こう
いう些細な事から楽しみを見つけるのはいい事だと思った。
「ポッキーゲームかぁ・・・・」
ポッキーを手にぼんやりしていると、ヤマスガタがにやにやしながら至近距離で
ワコを見ているのに気づく。
「ワコ様ポッキーゲームやったことないんですか?」
「えぇっ、な、ないけど・・・」
戸惑うワコを尻目に、ヤマスガタはワコとのやり取りを眺めていたスガタメを呼
び寄せる。
「ふふふ、じゃあ私ヤマスガタとスガタメが教えて差し上げましょう!まず片方
 がポッキーを口に咥えて・・・」
おもむろにヤマスガタがポッキーを一本取って口にくわえる。普通のポッキーよ
りも細い方だ。両手で肩を掴まれたスガタメは目を閉じてじっとしている。あと
数センチでポッキーが口に届きそうだ。それから二人で一本のポッキーを両側か
ら食べ合って、それからーー・・・・。






“ 夕暮れの、無人の教室。校庭からは熱心に部活動に打ち込む生徒達のかけ声や、
ボールを蹴る音がする。タクトは忘れ物を取りに帰ってきていた。机の中を覗
くと、案の定今日使おうと思っていたけれど使い損ねてしまったポッキーが一袋
入っている。CMではあなたとわたしとポッキー!なんて、誰とでも気軽にポッキ
ーゲーム出来そうな事を言っているが、現実はそんなはずなかった。精々今日は
ポッキーの日だな、と話題を振るのが精一杯だった。思い返してはあ、と一人た
め息をつく。
「はああ・・・ったく、ポッキーの日だなってわざわざ言ってるんだからポッキ
 ーゲームしたい!いやそれ以上もばっちり!ってことぐらい気づけよ・・・・ス
 ガタのバカ、むっつり王子」
「誰がむっつり王子だって?」
「・・・あ」
声のする方を向くと、ドアに片肘を乗せるようにしてスガタが立っていた。まず
い。どうしてこんな時にばっちり現れてしまうのか分からなかった。エスパーな
のかもしれない。
「・・・っや、やあ、スガタくん!な、何の要件かな・・・って、あ」
「なるほど、タクトはこれで俺とポッキーゲームしたかったんだな」
一生懸命何もなかったように取り繕ったのも虚しく、確信犯の笑みを浮かべてタ
クトからポッキーの袋を奪い取る。このまま気持ち悪がられて捨てられるんじゃ
ないかと思った瞬間、スガタがポッキーの袋を破った。
「え、あ、あの・・・スガタ?何して、」
「したいんだろ?ポッキーゲーム。タクトがしたいことなら・・・・何でもして
 やるよ」
何でも、と言われて思わず顔が赤くなる。ポッキーゲームの先のことを色々想像
してドキドキした。いつもは汗をかかないところまでかいてしまって、手なんか
特にべたべただ。
「・・・いいか?」
「お、おう」
頷くと、スガタがポッキーを咥える。咥えるだけなのにどうしてこんなにカッコ
いいのだろう。見とれているうちにも顔がどんどん近づいてくる。背後にあった
机に汗でべたべたになっている手で何とか手をついて、目を閉じた。甘いポッキ
ーの先にある、もっと甘美な唇を想像しながらーーー・・・・。“





「ワコー?おぉーい、聞いてるー?ワコー?」
「っはわあぁっ!?」
サリナに肩を叩かれているのに気がつく。ポッキーゲームを見ていだけなのにど
うしてタクトとスガタが浮かんできてしまったのだろう。ここ最近の自分の妄想
癖の酷さに反省しつつ、妄想のネタにしてしまった二人に申し訳なくなって、心
の中で謝った。
「いやー、なかなかいい妄想でしたよぉワコ様。ふふふふ」
「これは十分いけますね、アリです。時期的に早急だとは思いますが、冬の某所
 でコピー本くらいは望んでいいと思います」
「は、はあ・・・・」
スガタメとヤマスガタが楽しそうに何か言っているが、分からない単語が飛び交
っているせいでワコは曖昧に笑っておいた。冬の某所とは何処のことなんだろう
か。でもそれより、毎回自分の妄想が女子部員に読み取られていることが疑問だ
った。
「まあ、確かにワコのもいいけど・・・・私はあえて逆というのもなくはないと
 思う」
「ぎゃ、逆ですか!?」
「例えばどんな感じで!?」
サリナの言葉に、獲物に狙いを定めて捕らえる雌豹のように食いつくスガタメと
ヤマスガタ。よしきた、と言わんばかりにサリナは笑う。
「そうね、例えばこんな感じーーー・・・・」







“夕暮れの教室。校庭で熱心に部活動に打ち込む生徒を窓から眺める。昨日の夜、
今日がポッキーの日だと知って、買って持ってきたはいい。でも、肝心のタク
トとポッキーゲームをすることはできなかった。一番やりたかったことだったの
に。夕陽の目映いばかりの赤を見ていたら何だか急にすごく情けなくなってきて、
いっそのこと一人で食べてしまおうと袋に手をかけた時だった。
「どうしたの、帰らないの?」
「・・・・っい、いたのか」
「今来たとこだよ。なかなかスガタが来ないからさ、迎えに来たんだけど。・・
 ・何持ってんの?」
ドアの傍に立っていたタクトがみるみるうちに近づいてくる。
手に持っていた袋に気づかれて、咄嗟にブレザーの内ポケットの中に隠した。
「・・・・別に、何も持ってないよ」
「えぇーっ、だって今何か隠したじゃん」
「隠してない」
じっと下から上目遣いに見られて、言葉がスムーズに紡げなくなった。嘘をつい
ているのを見透かされている気がしたのと、見られて恥ずかしいのが原因だ。心
なしか少し顔が熱い。
「・・・そっか、本当に隠してないんだったらしつこく聞いて悪かったよ。じゃ
 あ、帰ろーー・・・」
押して駄目なら引く手に出たらしい。戦法は見え見えだ。なのに、それに上手く
乗せられているのも分かっているのに、このまま行って欲しくなくて、タクトの
制服のブレザーをぎゅっと掴んで引き止めた。タクトが振り向く。
「・・・・で、何隠してたの?」
どこか楽しそうなタクトを前に、降参して頬が羞恥で熱いまま隠していたポッキ
ーの袋を机の上に出した。
「今日はポッキーの日なんだろう、タクトと・・・・その、ポッキーゲームがし
 たくて、持ってきてたんだ」