そのうち慣れるから
「いいよ、今日だけな。明日からはちゃんと練習しよう」
「…まぁな」
「俺たちこれからこの世界で暮らしていくんだから、人間の姿で人間らしくしておかないと。あんまりボロを出してたら、すぐ敵に見つかるだろ?」
「そうだな。(もう見つかってるみたいだけどな)」
「大丈夫、少しずつ慣れていけばいいさ。ちなみに、こっちの世界では恋人同士はこうするらしい」
何げなくココはナッツに顔を寄せ、その頬に自分の唇を押し当てた。
ナッツはぽかんとして、それから首をかしげる。その様子を見てくすくす笑いながら、さらにココは戯れかける。
「こうして向かい合って、抱き合って、お互いの口を付けるんだよ。ほら…」
言葉のようにしてから何度か唇を重ねる。
少しかさかさして、生温かく、自分からやっておいて言うのもなんだが、あまり心地いいものではなかった。それはナッツも同じらしく、ますます首をかしげている。もう苦笑するしかない。
テレビの中の恋人たちはもっときつく身を寄せ合い、何度も繰り返し口を付けていたが、それはとても幸せそうな光景だった。自分たちがあんな風になれるのはまだ時間がかかりそうだ。
「ま、そのうち慣れるから」
「ふーん」
「それまではしっぽを合わせとこうか」
「なッ!?」
途端にナッツは赤面する。褐色の肌を染めて耳まで真っ赤だ。
「何だよ、照れるなよ。最近もふもふしてないもんな」
「言うな!はっきり言うな!だからデリカシーに欠けるんだ、お前はっ!」
「えー、恥ずかしくてもやることはやってるしー」
もう離さないとばかりに縋り付けば、こらえ性のないナッツはすぐに変身を解く。宙に放り出された小さな体をキャッチして、のぞみたちがするように腕の中へぎゅっと抱き締めた。
「はなすナツ…」
「冗談だよ。体、洗おう?そのあともふもふしよう?」
「はなすナツ〜!」
「ははっ、ナッツ可愛い」
じたばたするナッツに頬を擦り寄せる。毛並みのよい柔らかな触り心地がとても気持ちよくて、やっぱりこっちの方がいいとココは幸せをかみ締めた。