そのうち慣れるから
それから軽い音をたてて人間の姿へ転じた。机の上にいたのですぐに下りて、ぱんぱんと服の埃を払い、手の甲に髪の毛を乗せて流す。
まるで人間のモデルのような仕草だ。どこで覚えたのか分からないがナッツの癖で、これをするたび客の女性はうっとりして喜ぶ。
「とんだ目にあった」
すまし顔でそう言うナッツに、ココは思わずくすっと笑った。
のぞみたちは普段から人間の姿とのギャップの激しさを主張するが、正直なところココには自分でよく分かっていなかった。いつも普通に自然体でいるつもりだからだ。
けれど最近、人間の姿をしたナッツを見ているうちに何となくそれが分かってきて、時々おかしくなる。
(さっきまであんなに可愛かったのに、そんな格好つけられてもなぁ)
自分も随分と人間くさくなったものだ。そう思いながらココは、しきりに髪を気にして手ぐしをかけているナッツに近寄った。
「ま、あとはシャワーで洗えば完璧だろ」
「シャワー?」
「水浴びのこと。お湯が出るやつ、風呂にあっただろ」
「あぁ…」
「それとももう風呂に入る?」
「そうだな。じゃあ、流しに湯を溜めてくれ」
「台所を使うつもりか!?人間の格好で洗う練習もしろよ〜」
軽口をたたけば、ナッツからじろりと睨まれる。お前が言うな、と。
確かにココも入浴中は元の姿に戻っていることが多い。体の構造があまりにも違うので洗うのが面倒くさいから…なわけでなく、のぞみの家に滞在していたとき、いくらなんでも成人男性の姿で浴室を使うわけにはいかなかったからだ。
この店に住むようになってからは、出来る限りいつも人間の姿をするようにしているし、ナッツにもそう言っている。そう簡単に変身が溶けるようではこの世界でやっていくのは難しいので、修行が必要だ。
「一緒に入って洗う練習しようか?」
「お前に洗ってもらうのが一番手っ取り早いんだが」
「そんな、素直に甘えられても。気が抜けるなぁ」
口ではそう言いつつココは嬉しさを堪えきれず、少し強引にナッツと肩を組む。
お互い違う姿でいると気がゆるむのか、今日のナッツはいつになく甘えたがりだ。ココもだんだん優しくしてあげたい気持ちでいっぱいになってきた。