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Walking on the holiday




「参加するの!」
 鶴の一声とはこのことだろう。夏希が腰に手を当て宣言したことに、健二が逆らえるはずがない。仮定するにしても馬鹿馬鹿しい話だった。
 ――事の起こりはなんだったのか。
 部活を引退した夏希よりもなお体力がないような健二をなんとかせねば、という気持ちが、回りがじれったさにやきもきして胸焼けするような仲(他に妥当な表現があまりない)になった後から、彼女の中で日に日に大きくなっていた。別に夏希だって筋骨たくましい男が好みというわけではないが(どころか初恋の相手は猫背だし)、やはり注文というのは段々増えていくのが普通だったし、それに、本当は健二くんはすごいんだから! というのがいまいち回りに通じないように見えるのが何となく腹立たしい、という思いもあったかもしれない。
 そんな素地があったところで、本家のある上田でどうやら毎年開催されているイベントがあることを知った。ウォーキングのイベントで、コースもいくつかあるらしい。毎年ということは聞く機会だって今までもきっとあったのだろうが、夏休みでもないし、何となく意識に残らなかったのかもしれない。そもそも、夏希は上田に住んでいるわけでもなかったし。
「これよ!」
 夏希の中で瞬時に計画が立てられた。健二と一緒に参加して彼を鍛える、という計画が。自分の受験その他などはそっちのけだ。
 速攻健二を捕まえ、彼女は宣言した。「真田幸村ロマンウォークに参加するわよ!」と。

 朝八時から受付開始、ということで、当初の計画では当日朝始発の新幹線に乗るか、ということになっていた。だが一体どういうルートで聞きつけたのか、「それなら前の夜に俺が送っていくよ」と爽やかに市ヶ谷勤務の某身内が言い、連携プレーのように「そうよ、朝早いのは大変よ、泊まってらっしゃい」と貫禄の増した現在のご当主が決め、あれよあれよという間に健二はウォーキング前日の金曜夜、すなわち放課後すぐにさらわれるように上田へ旅立った。「おみやげ、あんずコロンでいいぞー」と手を振る佐久間に見送られながら。とりあえず性格で、さらわれながらも健気にウォーキングのパンフレットを読んだり夏希や理一に受け答えしたりしていた健二を、さらには上田でとどめのように「僕も参加することにしたから」と佳主馬が待ち受けていたりした。
 そんなわけで、結局、恐らく最初は「夏希が健二をウォーキングイベントに誘う」という主旨だったはずが、なんだか規模が膨れ上がって、皆で健康づくりのためウォーキングに参加しよう、あと婿殿に観光をさせてあげよう本当に婿に来いよ☆ツアー、に様相を変えていた。恐るべきは陣内家の皆様の親戚パワーというものなのか。

「っていうか、なんでこんなに皆集まってるの?」
 二人っきりのはずが、ちょっと遠方の家族がいないだけで、理香に理一の姉弟、頼彦たち三兄弟+家族、エロ親父…もとい兄弟の父万作、佳主馬(ひとりで名古屋から来たらしい。家出?とびっくりしたのは健二だけで、他は誰も驚いていなかった。自立している…というのだろうか)、夏希が来たからと顔を出した翔太に、なんとなく皆が集まってるならで顔を出した太助、などなどが揃った場に遭遇して、夏希は少々ご機嫌斜めだった。
 が、あの夏と同じように、大勢に囲まれる健二は楽しそうで、嬉しそうで、それが自分の家族に囲まれてのことだからなんだか夏希も嬉しくなったりするわけで、だから少々の不機嫌は水に流すことにする。それでも言葉になってしまったのは、まあご愛嬌、である。
「まあまあ、うちはいつでもこうでしょ」
 気にしない気にしない、と手を振るのは理香だ。市役所的にも大きなイベントなのか、参加するのだといったら結構色々詳しく、というかかなりな熱意を持ってあれこれ教えてくれた。
「それにしてもリュックの似合うまち、って…リュック?」
「リュック。ハードなコースは三十キロあるからね」
 ウォーキングは土日両日開催だが、それぞれ開催されるコースが違う。コースはA〜Eまで五コースあり、もっともハードなのがDコースの三十キロである。また、開催地点も他と多少異なり、それなりにちゃんとした装備を求められるコースでもある。
「で、どれに参加することにしたのよ」
「それはもちろんA、」
「Cコース、Cコースです先輩、四キロです…!」
 勢いよく手を上げて、一日目一番の難コースであるAコース(二十キロなり)を口走った夏希の横、健二が慌ててパンフレットから顔を上げて訂正する。土曜日に開催されるA〜Cコースは、それぞれAコースが約二十キロ、Bコースが約十キロ、Cコースが約四キロ。日曜日に開催される二コースがDコース約三十キロとEコース約十一キロ。ちなみにAコースは「美しい日本の歩きたくなる道五百選」でもあるそうな。
 …インドア草食系男子に選ぶものなどひとつしかない。まあそれだって、夏希がどうしても十キロコースにするわよと言い出したら変更されかねないが、希望を述べる程度の押しなら健二にだって出来る。
「ええ? そうね、それもいっか」
 しかし夏希はきょとんとした後、特に異論もないのか頷いた。
「じゃあ僕もそれに出る」
 それまで黙っていた佳主馬が、淡々と口を挟んだのはその時だった。え? と夏希、健二が振り向く。他は「そうかそうか、子供は風の子だしな」と笑いながら既に宴会が始まっている。そんな中まだ飲まれていないらしい市ヶ谷勤務が口を開いた。
「じゃあ俺もそれに出ようかなあ」
「はっ?」
「ちょっと本職ー、あんたは明日の三十キロしかないっしょ!」
 ビールを傾けながらの弟の頭を、姉は容赦なく小突いた。幾つになっても姉弟は姉弟、序列も力関係もあまり変わらないものらしい。
「っていうかそもそもあんたはあたしの運転手でしょうが!」
「はいはい」
 肩を竦めて姉の空になったコップにビールをついでやる理一には、もはや何か諦観のようなものが見て取れる。
 自分のところは姉でなく妹でよかったかもと佳主馬が思ったかどうかは不明である。
「あんた、ほんとに来るの?」
 家に親戚が集まるのはまあともかくとして、肝心のウォーキングにまでなんでおまけがついてくるのだ、と夏希は正直に不満そうな顔をした。それに答える佳主馬は常のクールな表情を崩さず、「行くよ」という決定事項だけを返した。わざと真意を読まずに返すというやり方に、夏希はさらにむっとする。
「まあまあ、夏希先輩、みんなで行くほうが楽しいですよ…!」
 そこで一所懸命とりなす健二は恐ろしく人がいい、とでも言えばいいのか。いやそこでそれ言っちゃだめだろう婿殿、と大人たちの誰かが呟いたが、
「…健二君…もう!」
 まあ色々な葛藤の末夏希の中では「健二的にはあり」という決着がついたらしい。咎めることもなく、でも一緒に歩こうね、とめげずに提案していた。しかし佳主馬のやる気に満ち溢れた顔を見る限り、あれは絶対一緒にくっついて回るな…というのが、本人たち以外の得た推論だった。しかし誰もそれを口に出すようなことはしない。
 ――だって、色々あった方が、面白いから。
作品名:jumper 作家名:スサ