jumper
モニタのリスがぱっと顔を上げてどきどきした表情で聞いた後、すぐにはっとして、それからしゅんと下を向いた。しっぽまで丸まっている。なんという感情の起伏の激しいアバター。こんなものを仮で作ったなんて佐久間恐るべし。もう、佳主馬なんてじったんばったんしている。本当に聖美以下略。
ぶさかわいいくせに可愛すぎる。もう可愛すぎて生きてるのが辛い。とまで佳主馬は思った。大丈夫か中学生。でも見た目というか声に出る部分はまだ成功している。チャンピオンともなると精神力が違うようだ。
「学校の教科だと、数学が好き。答えがはっきりしてるから」
内心の動揺とかなんとか諸々は押さえ込んで、佳主馬は答えた。実際あながち嘘でもない。答えがいくつもあるなんていうのは、すっきりしなくて好きではないのだ。
「少林寺は?」
「数学の話をしてるんでしょ。健二さんの話をさ」
上目遣いのリスを見ながら、もう健二がリスなんだかリスが健二なんだか、と頭の中が大混乱する佳主馬はどんなにクールでどんなに落ち着いて見えてもやっぱり中学生なのだった。
「うん。…そっかあ、佳主馬君も数学が好きなんだ。同じだね、嬉しいなあ」
転がりそうなほどに首を動かして、リスが喜んでいる。ウサギが腕を伸ばしたのは、多分マスターの影響というか、まあ、なんというか…まあ、そういうあれだろう。
「わわっ? 佳主馬くん?」
リスがぎょっとした顔で、自分を担ぎ上げたウサギを見上げている。驚きすぎだ。
「かずまくん…?」
上からのぞきこむ顔が佳主馬の脳裏でリアル健二と重なった。だからそれを人は妄想と…。
その晩、佳主馬は布団もかけずに丸くなり「健二さんが天然過ぎてすてきすぎてかわいすぎてもう生きてるのがつらい…」とかぶつぶつ呟きながら寝入った。もう季節も秋とあって風邪をひいたのだけれど、もしかしたら知恵熱かもしれない。
――まあそんなわけで、キングが強くなった理由などとっても単純なものなのだ。要するに、好きな子にいいところをみせたい、というか。いやまあかっこよく言うのであれば、ステキすぎる健二さんに相応しい自分になりたいという…まあ内容は一緒である。
恐るべきは小磯健二ということを、キング・カズマファンの誰も知らないのは恐らく世界にとっても健二にとっても佳主馬にもとっても、幸いなことである。