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僕らの時計は止まらないで動くんだ。

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 佳主馬はそれ以上は口を開かず、そっと額を沈めた。健二の肩口に。健二は、あ、と思わず佳主馬の手を離してしまった。すると、自由を得たはずの少年の手が、健二の瞼を覆うように動く。
「健二さんがいてくれて。生まれてくれて。生きていてくれて。このうちに、あの時きてくれて…、僕たちを…、僕を、助けてくれて。いろんなことを教えてくれて。…それで、ひとりで、誰もいないところじゃなくて、うちにいる間に具合悪くなってくれて」
 佳主馬の声は淡々としていた。けれど特に最後の部分が気になって、健二は瞼を覆う手を外そうとするが、どんな力で抑えているのか、はがれることはなかった。
「ぞっとする。誰もいないところで、健二さんが寝込んでたらって考えたら。だから、看病させてくれて嬉しい」
「…そこまで弱くないよ、いくら僕でも」
 さすがに恨めしげに口を尖らせれば、佳主馬は微かに笑ったようだった。もしかしたら手を離してくれないのは、照れくさいからなのかもしれない。
「どっちにしろ、健二さんは弱くない。だから、体くらい、ちょっとくらい弱くたって、…ちょうどいいんじゃない?」
 無茶苦茶だ、と思ったけれど。健二は泣き笑いのような顔で笑う。出会えてよかったと思う。友達とも家族とも違う、どんな言葉でも言い表せない、特別な――、
「…佳主馬くんは本当かっこいいんだから。僕は全然かなわないや」
 目を閉じて大事な告白のようにそんなことを言う。佳主馬は面食らった様子で黙り込むしかできない。こんな風にてらいなく言える健二の方が、ずっとすごいと思う。佳主馬はぐったりと、健二の頭の脇に額から沈没した。
「かずまくん?」
「…おにいさんには、負ける」
「え?」
「なんでもない。…早く元気になって」
 短く頼み込めば、健二は嬉しそうな、彼らしい穏やかな声で「うん」と頷いたのだった。


 二人が出会ってからの時間は、まだ刻まれ始めたばかり。