憂鬱なら噛みくだせ
人一倍気高いガゼルは弱音を吐くことを汚点だと思っているようだった。チームメイトの前で弱気なことを言うなんて、キャプテンとして恥ずべきことだ、そう感じている。
思いつめているガゼルを前に、しかしバーンは笑っていた。場にそぐわないようなにやにや笑いを浮かべている。不遜な態度に眉を寄せると、さらにバーンは口角を曲げた。
「んなこと言って、吐いてるじゃねーか、俺に弱音」
「……そんな、つもりは」
「ま、いいぜ、別に話くらいは聞いてやるよ。気が向いたらだがな」
変に気取っている奴だと思っていた。お高くとまって、同じマスターランクであるバーンのことをいつも暑苦しい奴、と見下しているような鼻持ちのならない男だと。なんのことはない、ガゼルもちゃんと子供だった。ひたすら悔しがり、本音を口にすることに悩み、挙句バーンに悩みともとれる発言まで零した。氷のようなガゼルが嘘みたいだ。
指摘され、言い逃れできない事実を突きつけられたガゼルはまたしても唇を噛んだ。ひどく歯がゆそうに。
「……戻る、手を離してくれ」
言われて、まだ手首を掴んだままであったことに気づいた。離してやるとすぐに背中を向け、元来た道を戻っていく。しかし途中で立ち止まって、
「バーン、きみと話していると、すごく消耗する」
「はァ? 」
「疲れて、今すぐベッドで眠りたい気分だ」
「なんだよ、嫌味か」
「だが、この疲れが少し荒れている私をなだめてくれるのかもしれない。きっと眠れば今よりは落着くだろうから」
ガゼルが何を言いたいか、バーンにはよくわかった。彼なりの遠回りな感謝の気持ちの表れなのだ、おそらくは。
――少しも素直じゃない奴。バーンは思わず心中で舌を出した。
そのまま別れた。おやすみ、も何もない。別れの言葉なんてむずがゆいだけだ。
部屋に戻ったガゼルはすぐに眠りに就くことだろう。眠って回復して、きっといつもの通り冷静な顔で現れる。そして気持ちを入れ替え、チームメイトと向き直る。それらの情景が目に浮かぶようだった。
明日顔を合わせたら、まずなんて言ってやろう? いつもどおりを装うガゼルに、さっきの取り乱しぶりを話題にだしてみようか。きっと嫌な顔をされるとともに、辛辣な言葉も吐かれることだろう。しかしそれこそがいつものガゼル。ダイアモンドダスト、キャプテンのあるべき姿なのだ。
「まったく、いつまでもあいつにうじうじされてちゃ、調子狂ってしょうがねえんだよ……」
誰の姿もないことを確認してぽつりと呟く。まだからだのあちこちがこそばゆいくらいだ。それも、明日になればいつもどおりに戻る。戻ってくれなきゃ、また調子が狂ってしまう。――そいつは困る、とバーンは理由づけて、こっそりとガゼルの心の平穏を思う。