夢みる子供の物語
もっともっと自由が欲しい、と願う。いちばん初めに持っていたような、あのどこにも属さない身軽さが。もう完全な形では手に入らなくなってしまった自由を、俺は切望する。でも、ああいう身軽さを永遠に持ち続けることって、不可能なのかも、ともちょっと思っている。それは人でも国でもそうなのかもしれない。誰とも関わらずに完全に一人っきりで生きてくことなんて、きっとできやしない。やだ、やだ。
ぐったりしていたら、お腹まで減ってきた。水を飲むついでにキッチンまで下りていったけれども、こういう時に限って冷蔵庫にはろくな物が入っていなかった。買い置きのアイスもポテトチップスも、シリアルにかける牛乳も全部切らしてる。仕方なく、ダイニングテーブルの隅で異臭を放つ、胃にも精神的にも重たい黒焦げのスコーンを、袋から取り出して一口齧った。イギリスは誕生日の度に、贈り物へ呪いのオマケみたいにしてこの自作スコーンを付けてくる。スコーンはぱさぱさに乾いて、食べる端からぼろっと崩れていく。二百年以上も変わらないまずさだった。
ひどい味のスコーンを黙々と食べているうちに、俺は自分の家にいるのになぜか居心地が悪くなってきた。その不自由さを憎んで、そんなものを押しつけてきたイギリスのことも憎んで、彼の愛情も憎む。それから、深呼吸する。ほんの一瞬、その不自由さに気持ちを添わせて力を抜き、体をゆだねてみる。それは不穏なほどあまやかな感じがする。
いつのまにかしっかり手の中に握りこんでいた小さな機械を、キッチンのダストボックスにぽいっと放り込んだ。遊びはおしまい。くだらないおもちゃにも、もううんざりだ。それもこれも、自分で選んだこと、と、どこかで誰かの声がした。俺は知らんぷりをして苦いスコーンを齧る。誕生日の夜は更けていく。