Eine Monopolmethode
Eine Monopolmethode(独占方法)
どうしたら貴方を独り占めできるだろうか
口下手で感情も上手く表現できない
いつか飽きられるのではないかと怖くなる
こんなにも俺は兄さんに囚われている
お前は俺だけを見ていればいい
俺のせいでお前の表情が、視線が、独占欲に染まるのを見たい
手放す気なんてねぇーから覚悟しておけ
気付いてないだろうが俺の方がヴェストでいっぱいなんだぜ?
某日各国が集まり世界会議が行われた。今回のホスト国はドイツ。
他国で行われる世界会議にはあまり参加しないギルベルトも自国で開催される時は出席していた。
あまりまとまりのない会議も終わり、各国はそれぞれ雑談を始めている。
「ヴェー疲れたぁ。俺お腹すいちゃったよ〜日本、ご飯でも行かない?」
のほほんとした雰囲気を持つイタリア――フェシリアーノは隣に座っていた日本に話しかける。
「お疲れ様です。そうですね、今日は何も予定がありませんし・・・いいですよ、行きましょうか。」
書類を片付ける手を止め日本と呼ばれた黒髪の青年――菊は、会議中とは変わって生き生きと話すフェシリアーノに苦笑を浮かべながらも承諾を伝える。
「やったー決まりだね。あ、ルート!ルートも行こうよ!」
少し離れた場所にいたドイツ――ルートヴィッヒを見つけるとフェシリアーノは声をかけた。
ルートヴィッヒは荷物をまとめ二人のいる場所に近づき怪訝な顔をして言った。
「フェリ、いきなり行こうと言われてもわからないのだが。」
「お疲れ様です、ルートヴィッヒさん。この後フェシリアーノ君と食事に行こうという話をしていたのですが、よろしければルートヴィッヒさんも行きませんか?」
いつもと変わらない二人の様子に苦笑しながら菊はフェシリアーノの言葉を補足する。
「ふむ、食事か・・・・。」
「うん!あ、もしかして予定あった?」
ルートヴィッヒの少し考え込むような様子にフェシリアーノは首をかしげ問いかける。
「あー・・・いや、予定はないのだが・・・。」
「もしかしてギルベルト君と約束してましたか?」
「いいなぁデート?」
いつもと違い歯切れの悪い返事に、菊は思いついたようにルートヴィッヒの兄であり恋人でもあるプロイセン――ギルベルトの名前を出すとフェシリアーノも少しからかい混じりの言葉を続けた。
「デ、デートなどではない!にい・・・・兄貴とは何も約束はしていない。」
二人の言葉にルートヴィッヒは赤くなりながらも律儀に言葉を返す。
いつもの堅物な印象とは違い慌てる様は年相応に見え、菊とフェシリアーノは微笑みを浮かべた。
自分と兄の関係を知っており、相談などもしている二人の暖かい空気に恥ずかしさを感じながらも嘘のつけないルートヴィッヒはぽつぽつと話しだした。
「・・・・・昨日兄貴にアプフェルシュトロイゼルクーヘンが食べたいと言われたんだが林檎を切らしていてな。帰るついでに買おうかと考えていただけだ。」
*Apfelstreuselkuchen(アプフェルシュトロイゼルクーヘン):林檎のケーキ
「別に明確な約束はしていないし・・・今日でなくとも構わないのだが・・・。」と続けながらも一緒に行くとは言い切れないところにルートヴィッヒの想いが現れているのだろう。
結局、兄兼恋人のギルベルトに対し彼は甘いのだ。
「ギルーこの後お兄さんと飲みに行かない?アントーニョも誘って三人でさ、お勧めの酒場でも案内してよ。」
「よお、フランシス。つーかお前ちょっと太ったんじゃねぇ?重い。」
ギルベルトと彼の悪友と称されるフランス――フランシスの声が三人の耳に届く。
つられるようにルートヴィッヒが視線を移せばギルベルトの肩に腕をまわし話す二人の姿が映った。
「え、マジ!?・・・・ならギルがお兄さんのダイエット手伝う?勿論、ベッドの中でだけど。」
きょとんとした顔から一変、愛の国を自称するフランシスは艶を含んだ声と共にギルベルトに更に密着した。
「わり、小鳥撫でてやらなきゃなんねぇからお前の相手は無理だ!」
笑いながらギルベルトは言うが、フランシスの手を振りほどくことはなかった。
その様子をずっと視界に入れていたルートヴィッヒはもやもやとした感情が浸食してくるのを感じる。
(いくら友人とはいえ近すぎではないか?冗談だとしても何故兄さんははっきり断らないんだ・・・・こんな堅物よりやはり積極的な奴の方がいいのだろうか・・・。)
「ルート?」
「ルートヴィッヒさん?」
先程の照れた様子から一変し、頼りなさげな顔をしているルートヴィッヒにフェシリアーノと菊が声をかけるとハッとしたように返事が返ってきた。
「あ、あぁ・・・すまない。何の話だったか?」
「近くのカフェでお茶してからご飯行こうかって話してたんだけど・・・ルートもカフェだけ行かない?それならお店も閉まらないだろうし。」
「無理にとは言いませんが、せっかくですから。」
心情の変化に気付きながらも追及せず、気遣ってくれる友人たちに内心感謝しつつ了承を伝えようとすると・・・・
「なら近くにいい店があるからそこに――――。」
「酷っ、俺は小鳥以下なの!?」
「ケセセセセッ。」
「なー、二人で何話とるん?」
がバッと勢いよく体を離したフランシスの直後、後ろからもう一人の悪友スペイン――アントーニョがタイミングが良いのか悪いのか勢いよく押した。
「うわっ!」
咄嗟に対処できなかったフランシスの体は傾き、ギルベルトの方へ倒れこもうとしていた。
アントーニョがフランシスを押そうとした時、ルートヴィッヒは無意識のうちに体が動き訓練さながら・・・いや、訓練以上のスピードで三人に近づくとギルベルトの腕を掴み自分の方へ強く引いていた。
「っ・・・。」
「いって・・・!」
腕も引かれたギルベルトはルートヴィッヒの肩に体を預ける形となり、フランシスは手をつきながらも床とご対面していた。
「うわー、フランシス何しとんの?」
一瞬の静寂が訪れたがアントーニョののほほんとした声が響き、場の空気は元に戻っていった。
「お前がいきなり押すからでしょ!?」
「あれ位で倒れるフランシスが弱いんとちゃう?」
「タイミングが悪かったんだよ!」
少し離れた場所でする立ち上がったフランシスとアントーニョの会話を聞きながらも
ルートヴィッヒは自分の行動が信じられない様に固まっていた。
(俺は・・・何を・・・・?)
「おーい、ヴェスト?」
「兄さ・・・あっ、すまない!これは・・・その・・・。」
弾かれた様に兄の腕を離すと自分の行動を説明出来ずしどろもどろになってしまう。
「いや、ありがとな。でも俺はあれぐらい避けれたぜ?」
「・・・・それくらいわかっている。俺だって、なぜ・・・。」
兄のことはよくわかっているのに自分の行動が上手く説明できないのか、気まずそうに下を見ていた。
そんな恋人の姿にギルベルトは口元に笑みを浮かべ、耳元に顔を寄せて囁いた。
作品名:Eine Monopolmethode 作家名:柚亜