Eine Monopolmethode
「そんなに俺とフランシスがくっついてるのが嫌だったのか?」
さっきまでの自分を見透かしたような言葉にルートヴィッヒは小さく体を震わせ頬を赤く染める。
「に、兄さ・・・」
「ルート早かったね〜大丈夫?」
「二人ともお怪我はありませんか?」
二人の後ろから歩いてきたフェシリアーノと菊の声が聞こえた。
「フェシリアーノちゃん!!!」
いち早く振り向いたギルベルトはさっきとは全く違う笑顔でルートヴィッヒから体を離す。
「チャオー、ギルベルト。」
「相変わらず可愛いなー!」
自分に囁いた声とは違う兄の声とフェシリアーノの会話を聞きながらルートヴィッヒは未だにその場から動けずにいた。
「大丈夫ですか?」
どこか痛めました?と言う菊の声に、未だに兄の言葉と自分の行動が整理が出来ないままだがルートヴィッヒは少し冷静さを取り戻した。
「あぁ、大丈夫だ。怪我などはしていない。」
「なら良いのですが・・・えっと、これから先程のお店に向かいましょうか?」
混乱する気持ちを察するかのように菊は話題を変えた。それが恥ずかしくもあったが
ルートヴィッヒは有り難く使わせてもらうことにした。
「一応兄貴に言ってからでもかまわないか?」
ええ、と微笑みながら返す菊に苦笑いを浮かべながら目配せをすると、フェシリアーノとギルベルトの方へ体を向けた。
「ヴェスト、悪いけどこれから飲みに行ってくるから買い物付き合うの今度でいいか?」
ルートヴィッヒよりも先にギルベルトから言葉が発せられた。
切らしていた林檎を帰りに買うのに付き合う、という約束とも予定とも呼べない寄り道についての内容だった。
「あ、あぁ俺一人で十分だし、かまわないが・・・。」
あと遅くなるだろうから先に寝てろよー、と言葉を残しギルベルトは悪友たちの元へと戻っていく。
「ヴェー、ルート大丈夫?」
心配そうに見つめる二人にぼーっとしたままルートヴィッヒは「すまないが・・・カフェは今度でもいいか?」と告げる。
「気にしなくていいからね!」「またお暇なときにでも行きましょう。」と言う二人に
もう一度すまない、と言い会場の玄関で別れを告げるとルートヴィッヒは買い物も忘れ自宅へ帰っていった。
「え、本当に行くの?ルーイはいいの?」
会話が聞こえていたのかフランシスはギルベルトに問いかけた。
「いや、今日は行かねぇ。」
「そー言うと思ったわぁ。フランシスに妬いてたんちゃう?ルート。」
「んー・・・お兄さんも見てるの気付いて、可愛いからちょっとからかっちゃった。
まさかアントーニョに倒されるとは思ってなかったけどね。」
「あんなんで倒れるなんて思わんやろ〜。」
フランシスが白状するように苦笑交じりに告げるとアントーニョは全く悪びれた様子もなく返す。
「ヴェストが妬いてるのなんかわかってたぜ?」
「そうじゃなきゃフランシスにあそこまでベタベタされるかよ。」と世間話でもをするようにギルベルトは二人に告げる。
「え・・・ルーイはお前の恋人だよな?」
だったら何故煽るような行動を・・・というようにフランシスは疑問を投げかける。
「妬いてる時はヴェストの頭ン中は俺のこと以外ないだろ?」
ふふん、と得意げな顔をしながら楽しそうに自分の目的を話すギルベルト。内心ルートヴィッヒに同情しながらフランシスはさらに問いかける。
「そんなことしなくてもルーイはいつもギルのこと気にしてるんでしょ?トーニョだって気付くくらいだし。」
「ルッツの気持ちなんかわかってるけどよー・・・妬くのは俺が好きだからだし、ヴェストの思考も独占できる。それに・・・・。」
「それに?」
「妬いてる時の顔、すっげーイイんだよ。あんな分かり易いことまでするとは思わなかったがな。」
おそらく最後の言葉が彼の行動の一番の理由なのであろう。悪友二人の「うわー。」「ギルちゃん歪んどるわぁ。」といった声を聞き流し、おそらく自宅に帰っているであろう最愛の存在に想いを馳せていた。
(今頃お前は俺のことだけ考えてんだろ?すぐ帰ってやるから待ってな。ケセッ。)
「つーわけで小鳥のようにカッコイイ俺様は帰るぜ!またな!」
片手を挙げ二人に挨拶を済ませると軽い足取りでギルベルトは出て行った。
「ルーイも災難だねぇ。」
「本人同士が良ければええんちゃう?幸せそうやし。」
上機嫌な友人を見送った二人はそれぞれ感想を述べると、近くのレストランへと向かっていった。
一方、自宅に着いたルートヴィッヒの頭の中では会場での出来事や兄の言葉がぐるぐると回っていた。
「はぁ、俺は何をしているんだ。」
書斎に荷物を置きに行くこともせず上着と共にリビングの机に放置し、ソファーに身を預ける。ネクタイを緩め、一番上まで止められていたワイシャツのボタンを一つ外したところで混乱していた自分が少し落ち着いたように感じた。
何故自分があんなことをしたのか――――考えればすぐにわかる。
そう、子供じみた嫉妬。
『そんなに俺とフランシスがくっついてるのが嫌だったのか?』
兄にも見透かされた通りフランシスとの距離が嫌だった。
簡単にくっつけるフランシスが羨ましく思い、同時に恥ずかしさから素直になれない自分に不甲斐なさも感じた。
「自分のことを棚に上げて情けない・・・。」
兄はどう思っただろうか、独占欲を露わにした俺を。
呆れてはいないだろうか?
不安に駆られ悪い方向にばかり進む考えを振り切るように右手で髪を乱す。
「少し休むか。」
――――どうせ兄さんは今日帰ってこないかもしれない。
鈍い痛みも、どうしようもない寂しさにも気付かない振りをして頭をソファーの背もたれに預け瞳を閉じれば、すぐに眠気に襲われそのまま眠りへと落ちていった。
ガチャ―――――
「兄さん!?」と弟の声が聞こえるのを予想していたギルベルトの耳にその声が届くことはなかった。
「ヴェスト?」
家の中に気配はあるが物音一つしない。しかも書斎のある二階ではなくリビングから明かりが漏れていた。
林檎の入った紙袋を抱えリビングのドアを開けばソファーに座ったまま微動だにしないルートヴィッヒの後ろ姿。
机の上に紙袋と荷物を置けばルートヴィッヒの上着と荷物があり、彼が自室で着替えることもなくリビングにいたことを物語っていた。
「ケセ、可愛い奴。」
普段ならば疲れていても荷物の整理等を真っ先に行う弟のいつもとは違う行動に更に笑みを深くしたギルベルトは恋人の眠るソファーへと近づいた。
「ただいま、ルッツ。」
乱雑に乱された髪を撫で、隣へと腰を下ろし頬へとキスを送る。
微かなぬくもりを感じたのか「ん・・・・。」と身を捩るとルートヴィッヒは眼を覚ました。
「・・・・あ・・・・え、兄さん・・・!?」
「おう、お兄様だぜー。」
覚醒しきっていない状態で、いるはずのないギルベルトの姿をとらえたルートヴィッヒは目を見開くと「何故ここに?まさか、もう夜中なのか?」と状況を確認しようとあたふたとしていた。
「まだ夜中じゃねぇよ、安心しろ。ヴェストが帰ってから二時間くらいだな。」
作品名:Eine Monopolmethode 作家名:柚亜