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Eine Monopolmethode

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ギルベルトは苦笑を浮かべ、慌てるルートヴィッヒを落ち着かせるように頭をポンポンと叩きながら今の状況を説明する。

「あぁ、そのようだな・・・。飲みに行くのではなかったのか?」

リビングの時計を視界の端に捕らえ、現状を把握したルートヴィッヒは落ち着きを取り戻した。

「行ってねぇよ、そもそも行く気なんてなかったしな。」
「は?」

会議場ではっきりと「飲みに行く」と告げた兄から「行く気がなかった」という言葉。
ルートヴィッヒの頭の中には『では会場で言ったのは何だったのだ?』『からかわれたのか?』という疑問が交差していた。
納得のいかない表情を浮かべる弟に苦笑を洩らすとギルベルトは肩をすくめながら言う。

「ヴェストは飲みに行って欲しかったのか?・・・・俺がフランシスとくっついてるのも嫌だったんじゃねーの?」

最初はからかう様に、後半の言葉はあの時囁かれたような――――おそらくルートヴィッヒの以外は知らない甘く、そしてどこか逆らえないような力を持つ声だった。

「それは・・・・。」

兄の視線と声から逃れるように顔を背けルートヴィッヒは俯いてしまう。顔を背けてもあの声によって思い出された自分の行動と嫉妬の感情。

「まぁ俺の勘違いなら今からでも出かけてくるけどな。」

ルートヴィッヒが返事に詰まっていると先程の様子とは一変し、普段と同じ声でギルベルトは言うとソファーから立ち上がった。ルートヴィッヒが何も言わなければ彼はこのまま出て行ってしまうだろう。

「・・・・待ってくれ。」

ルートヴィッヒは視線を合わせないまま服の裾を掴む。

「勘違いも何も、兄さんは気付いていたのだろう?」
「さぁどうだろうな。」

ギルベルトはぎゅっと掴む弟の手を見て内心笑みを浮かべる。皺が寄るほど強く握られた服からは言葉にはしなくともルートヴィッヒの意思がしっかりと感じられた。

「話すときは視線を逸らすなって教えたはずだぜ?ヴェスト。」

(早くその顔を見せてくれよ。俺の望む顔になってんだろ?)

「俺は・・・兄さんに行って欲しくない。」

どうせ兄は気付いているんだ、とルートヴィッヒはどこかふっきれた様に顔を上げ真っ直ぐ見詰める。それは縋るような視線であったがその中には嫉妬と独占欲がはっきりと見え隠れしていた。
欲しかった視線を一身に浴びるギルベルトはゾクッと歓びが湧き上がるのを感じ思わず口角が上がる。

「甘えんぼさんか?」

服を掴む手を取りその指に唇を当てる。
どこか儀式めいた行為にルートヴィッヒは頬を熱くしながらも自由な片腕でギルベルトの腰をソファーへと戻させた。

「そんな可愛らしい感情(モノ)でないことぐらい分かっているだろう。」

自分の手を掴んでいたギルベルトの手に指を絡めると離さない、というようにしっかりと握る。

「兄さんはズルイ。」

ルートヴィッヒが拗ねたように言ってもギルベルトを喜ばすばかりだった。

「ケセセ、でもそんな俺様も大好きなんだろ?」

するりと頬から首筋にかけて指を這わされれば反射的にルートヴィッヒは顎を少し上げ、ギルベルトの熱の籠った眼に囚われ何も言えなくなってしまう。
満足感に満たされたギルベルトは首筋に触れていた手でルートヴィッヒの頭を引き寄せると少し隙間の開く唇へと深く口付けた。

「っ・・・ん・・・。」

吐息と共に漏れる声と拙いながらも懸命に応えようとする弟に言いようのない愛おしさを感じながらギルベルトは唇を離す。

「愛してるぜ、俺の可愛いヴェスト。」

慈しむように眼を細めた最愛の存在に言われたルートヴィッヒはその言葉と今の行為に対する嬉しさと恥ずかしさから兄の肩に頭を預け小さな声で呟く。

「俺も・・・兄さんが好きだ。」

精一杯の告白をする弟を強く抱きしめるとゆっくりとギルベルトの背にも腕が回された。

(貴方に一番近いのはこの俺だろう?)
(お前は永遠に俺様だけを求めていればいい。)

どちらからともなく体を開放すると二人は幸せそうに微笑み合う。

「腹減ったな・・・・ヴェスト、アプフェルシュトロイゼルクーヘン食いてぇ。」

昨日と同じセリフを言われると、ルートヴィッヒはハッとしたように林檎を買うことも忘れて帰宅したことに気づく。

「すまない、その・・・林檎を買ってくるのを忘れてしまって・・・。ホットケーキでもかまわないか?」
「林檎なら俺様が買ってきてやったぜー。」

申し訳なさそうにするルートヴィッヒにギルベルトは自慢するように机の上の林檎を指す。
立ち上がり中身を確認すれば真っ赤に熟したリンゴがごろごろと入っていた。

「ふむ、これだけあれば十分だな・・・ありがとう、兄さん。」
「お礼はクーヘンな!」

ふんぞり返ってソファーに鎮座する兄に苦笑を洩らしながらエプロンを取り出しキッチンへとルートヴィッヒは消えて行った。
一人になったギルベルトは今日の弟の行動に満足気に笑みを浮かべる。



ルートヴィッヒに愛されていないとは思わない
言葉にはしなくとも顔を見ればすぐに分かる
だが、他者に嫉妬し自分だけを求めるあの瞳は何度見てもたまらない
自分のせいでそんな顔をさせていると思うと歓喜に震えるくらいだ
もちろん笑顔も幸せそうな顔も大好きだから慈しみ、愛し、甘えさせて包み込んでやりたい
しかし・・・・

「止められねぇんだよな。」

たまに支配欲にも似た独占欲がギルベルトの中で顔を出すのだ。
そして今日のように求めていた以上の反応をルートヴィッヒに返されギルベルトはさらに思う、『手放すことなど出来るはずがない』と。
あの年下の堅物は「俺は兄さんにいつも振り回されてばかりだ。」と言うが・・・

「振り回されてんのはこっちだっつーの。」

しかしギルベルトはそれも悪くないと思う。その度に愛してやまない存在が近くにいると実感できるから。

ケセ、と笑うとギルベルトは立ち上がりキッチンへ向かう。

「ヴェストー!今日は俺も手伝うぜ!」
「珍しいな・・・ならバターを冷蔵庫から――――」






どちらかだけが独占欲が強ければ喧嘩になったかもしれない
無意識でも意図的でも相手を振り回し、振り回されて
その瞳を、行動を、言葉を―――愛する人を独占するために探し続ける方法


作品名:Eine Monopolmethode 作家名:柚亜