神様へのノクターン
再び歌は、紡がれる。
透き通る声が室内を満たし、ピアノの音色と絶妙なまでに絡み合って、空を震わせる。
帝人は、霞み掛ける頭と視界を無理矢理起こし、歌に集中した。ここで倒れたりすれば、優し過ぎる幼馴染は、きっと自分を責めるだろう。
帝人にとって、静雄は希望である。
幾許も無い帝人の存在を心に残したまま、生きてくれる存在だ。
自惚れでも何でも無く、互いが互いに、失えない、消せない存在であるだけに、少女は、自分を失った後に負うであろう青年の傷を思えば、心が痛む。
連動して、本当に心臓が痛み出した気がして、どうにか気合で遣り過した。
エゴだと言われても、少女はもう、幼馴染を手放す事が出来ない所まで来ている。
自分の存在を残す事、青年に依存させる事、少女が行って来た事を、醜悪だと責める人間も居るだろう。
何とでも言えば良いと、帝人は思う。だって少女には、静雄しか居ないのだ。
帝人はどうあっても、静雄より先にこの世を去る。だからこそ、その時まで、出来るだけ長く、共に在りたい。
少女の愛したピアノの音に、包まれながら。
少女は
青年の存在を肯定する為だけに、その喉を震わせ
青年は
少女の存在を刻む為だけに、歌を作り、鍵盤を叩く
彼等の目に映るのは互いだけ
隔絶された世界は、続いて行くだろう
終焉を迎える、その時まで
命の灯を燃やし続ける歌姫の魂―声―は、神に殉じる聖女にも似て―――――