あいらぶまいふぁみりー！
平和島の姉弟はたいそう仲が良いと、昔から近所でも評判だった。
しっかり者だが少し天然入っている、年齢よりあどけない顔が魅力の長女。
喧嘩早く化け物級の怪力の持ち主だが、普段は家族想いの照れ屋な長男。
家族と芝居以外では１ミリたりとも表情が動かない鉄壁の美貌の持ち主次男。
何とも個性豊かな３人の姉弟だが、仲はすごく良い。
特に弟２人の姉に対する愛情は計り知れない。
姉もまたそんな弟達に惜しみない愛を与えていたから、相乗効果で見てる方は微笑ましいやら照れくさいやら。
シスコン上等、姉命を掲げ、平和島姉弟は今日も仲良しだ。
＊＊＊＊
後ろから「平和島さん！」と声を掛けられ、振り返ると女子が数人緊張した面持ちで立っていた。
（ああまたか）と帝人は苦笑したい気持ちを抑えて、わかっているのに「何でしょうか？」と尋ねてみる。
その言葉を合図にずいっと出されたのは、紙袋三つと。
「これを幽君に渡してほしいの！」
というやはり想像通りの言葉。
（そういえば、正臣が今日は調理実習があるって言ってたなぁ）
ちらりと中を見れば、可愛く包装されたカップケーキが並んでいた。
些か量が多いんでないの？と思いつつも、「わかりました」と帝人が笑顔で受け取ると、少女達は一様に顔を晴れやかにし、「ありがとう！」と去っていった。
「うーん、青春だぁ」
「帝人ちゃん婆臭いよ」
恋する女子は可愛いなぁと呟いた帝人にぬっと横から出てきたのは、ブレザーの学校で異色の学ランを羽織る帝人の後輩であり、すぐ下の弟である静雄の同級生だ。
かといって、仲が良いわけではない。というかすこぶる悪い。
毎日戦争という名の喧嘩をしているぐらい悪い。
しかしそんなお互い嫌悪する間柄であったとしても静雄の実姉である帝人には友好的というか、気が付けばちょっかいかけにわざわざ２年の棟まで来ているのだ。
今日も静雄の目を盗んで、帝人に会いにきたのだろう。
「だって可愛いじゃないですか。というかいい加減『先輩』付けてください、折原君」
「臨也って呼んでくれたら付けるよ」
「遠慮します。静雄に怒られちゃいますから」
「静ちゃんは関係ないでしょー」
「ありまくりですよ。可愛い弟のご機嫌を損ねたくないのが姉の心情なんです」
どんなに自分より背が高くなろうが、見た目年齢が逆転して見えようが、帝人にとって静雄は可愛くてしようがない弟なのだ。もちろん幽も。
つまりブラコンな帝人は少し親しいだけの後輩よりは弟を優先するのが当たり前のことなのである。
何度も交わしているやりとりなのに、臨也はやはり拗ねた顔を見せた。
「ちぇー、静ちゃんばっかずりぃの。あーあ、俺も帝人ちゃんの弟だったら甘やかされて可愛がってもらえたのかなー」
「今でも充分甘やかしていると思いますけど」
「ええっ？どこが？」
弟への贈り物を持っていた肩掛けのバックに入れようとするが、上手くいかなくてもたもたしていると、臨也がさりげなく手伝ってくれた。
嫌味なほどスマートな男だ。
モテるゆえんここに在りと思いながら「ありがとう」と帝人は笑う。
「言ったじゃないですか。僕は静雄に怒られたくないって」
「言ったねぇ。そのせいで俺は名前で呼んでもらえないわけだし」
「本当なら、こうして話すだけでも静雄は怒るんですよ？」
「せっまい男だよね、静ちゃんは」
その言葉に帝人はくすくすと鈴を鳴らすように笑う。
臨也が不思議そうにこちらを見ているのを、帝人は変なところで鈍い人だなぁと思った。
「それでも僕はこうして貴方と会って話をしている。・・・ほら、充分甘やかしてるでしょう？」
紅い眸が瞠られた。
帝人が楽しげに観察をしていると、さっと目元を赤らめ彼は顔を逸らす。
どうやらやっと自覚したらしい。
帝人はもうおかしくてたまらなかった。
「・・・・・・そんなに笑わなくったっていいじゃない」
「ふふ、折原君ってばほんと大人っぽいんだが子供なんだかわかんない」
ころころと笑い続ける帝人に、ぽつりと「君だけにだよ」と臨也は呟いたがその言葉は帝人には聞こえなかった。
しかしすぐに復活するのが折原臨也という人間で。
「じゃあ、甘やかしついでに名前呼びしてもいいじゃない」
「そこまでは駄目、です。これでもギリギリのラインなんですよ」
「ギリギリって・・・」
「静雄と幽が本気で僕と貴方を引き離すか離さないかのラインです」
あの子たちの本気は幾ら折原君でも厄介ですよ。
蒼い眸を煌めかせてそう囁く帝人に、臨也は見惚れながら「本当にあの脳筋と血を繋がってるなんて信じられない」とぼやく。
「・・・でもまあ、弟にはなれなくても、他人の俺は法的にも世間的にも帝人ちゃんの隣に立つ資格があるからいいかな」
帝人は応えずただ笑った。
臨也の手が一瞬ためらい、しかしすぐに帝人へと伸ばされるが、触れる手前でびりびりと校舎を震わせる怒声と殺気がそれを遮った。
「いーざーやー！！！」
「あ、」
「げっ・・・・静ちゃん空気読めよ」
「てんめえぇぇぇ！！姉貴に近づくんじゃねぇって言ってんだろうがよぉぉぉぉ！！」
言葉と共に振りかざされた教卓。
しかし帝人がそれを認識する前に後ろから腕を引かれ、臨也から離された。
帝人が振り返ると、そこにはもう一人の弟が相変わらずの無表情で立っていた。
「幽」
「危ないからこっち」
「でも、折原君が」
「あの人は平気。姉さんが心配することはないよ」
幽の言葉に、帝人が先ほどの立ち位置に目を向けると、成程確かに臨也は臨也で教卓を避け、しかもいつの間にか取り出したナイフで静雄に応戦していた。
「うーん、ナイフと教卓ではどちらが殺傷能力高いんでしょうねぇ」
「どっちも当たらなきゃ大丈夫でしょ」
「それは、そうですけど。・・・・幽、もしかして機嫌悪いですか？」
「・・・・・・・・・・・・・別に」
「別にと言うわりには間がありすぎです。何かあったんですか？先生に怒られたとか？あ、もしかして調理実習のプレゼント食べ過ぎましたか？実は先程幽にって女の子達に持たされたものがあるんですけど、お腹いっぱいなら明日のおやつにしましょうか。１日ぐらい置いても平気だと思いますし」
「・・・・色々と誤解があるようだけど、とりあえず姉さん、俺もう子供じゃないよ」
「子供扱いじゃないですよ。姉として弟を心配してるだけです」
「・・・嬉しいけど、複雑だよ」
はあっとため息を吐く仕草に、遠いところで悲鳴が上がる。
俗に言う黄色い悲鳴だ。
（うーん、うちの弟はほんと人気者だ）
弟２人が可愛くてしょうがない帝人にとって、その事実は誇らしい。
姉馬鹿でもいい。だって可愛いんだもの。
帝人がにこにこと笑うと、幽も首を傾げながらも少しだけ口元を綻ばせる。
ほわほわとした空気が２人を包む中、戦争を終えた（というか逃げられた）もう一人の弟が呆れた顔をしながら近づいてきた。
「２人して、何見つめ合ってんだよ」
呆れていても僅かに滲むやきもちにめざとく気付いた幽は、「羨ましい？」と帝人を背後から抱きしめる。
「ばっ、お前学校で姉貴にくっつくな！」
「何で？」
「何でって・・・！」
「まあまあ、いいじゃないですか。何だったら静雄もくっつきますか？」
「はっ？！」
しっかり者だが少し天然入っている、年齢よりあどけない顔が魅力の長女。
喧嘩早く化け物級の怪力の持ち主だが、普段は家族想いの照れ屋な長男。
家族と芝居以外では１ミリたりとも表情が動かない鉄壁の美貌の持ち主次男。
何とも個性豊かな３人の姉弟だが、仲はすごく良い。
特に弟２人の姉に対する愛情は計り知れない。
姉もまたそんな弟達に惜しみない愛を与えていたから、相乗効果で見てる方は微笑ましいやら照れくさいやら。
シスコン上等、姉命を掲げ、平和島姉弟は今日も仲良しだ。
＊＊＊＊
後ろから「平和島さん！」と声を掛けられ、振り返ると女子が数人緊張した面持ちで立っていた。
（ああまたか）と帝人は苦笑したい気持ちを抑えて、わかっているのに「何でしょうか？」と尋ねてみる。
その言葉を合図にずいっと出されたのは、紙袋三つと。
「これを幽君に渡してほしいの！」
というやはり想像通りの言葉。
（そういえば、正臣が今日は調理実習があるって言ってたなぁ）
ちらりと中を見れば、可愛く包装されたカップケーキが並んでいた。
些か量が多いんでないの？と思いつつも、「わかりました」と帝人が笑顔で受け取ると、少女達は一様に顔を晴れやかにし、「ありがとう！」と去っていった。
「うーん、青春だぁ」
「帝人ちゃん婆臭いよ」
恋する女子は可愛いなぁと呟いた帝人にぬっと横から出てきたのは、ブレザーの学校で異色の学ランを羽織る帝人の後輩であり、すぐ下の弟である静雄の同級生だ。
かといって、仲が良いわけではない。というかすこぶる悪い。
毎日戦争という名の喧嘩をしているぐらい悪い。
しかしそんなお互い嫌悪する間柄であったとしても静雄の実姉である帝人には友好的というか、気が付けばちょっかいかけにわざわざ２年の棟まで来ているのだ。
今日も静雄の目を盗んで、帝人に会いにきたのだろう。
「だって可愛いじゃないですか。というかいい加減『先輩』付けてください、折原君」
「臨也って呼んでくれたら付けるよ」
「遠慮します。静雄に怒られちゃいますから」
「静ちゃんは関係ないでしょー」
「ありまくりですよ。可愛い弟のご機嫌を損ねたくないのが姉の心情なんです」
どんなに自分より背が高くなろうが、見た目年齢が逆転して見えようが、帝人にとって静雄は可愛くてしようがない弟なのだ。もちろん幽も。
つまりブラコンな帝人は少し親しいだけの後輩よりは弟を優先するのが当たり前のことなのである。
何度も交わしているやりとりなのに、臨也はやはり拗ねた顔を見せた。
「ちぇー、静ちゃんばっかずりぃの。あーあ、俺も帝人ちゃんの弟だったら甘やかされて可愛がってもらえたのかなー」
「今でも充分甘やかしていると思いますけど」
「ええっ？どこが？」
弟への贈り物を持っていた肩掛けのバックに入れようとするが、上手くいかなくてもたもたしていると、臨也がさりげなく手伝ってくれた。
嫌味なほどスマートな男だ。
モテるゆえんここに在りと思いながら「ありがとう」と帝人は笑う。
「言ったじゃないですか。僕は静雄に怒られたくないって」
「言ったねぇ。そのせいで俺は名前で呼んでもらえないわけだし」
「本当なら、こうして話すだけでも静雄は怒るんですよ？」
「せっまい男だよね、静ちゃんは」
その言葉に帝人はくすくすと鈴を鳴らすように笑う。
臨也が不思議そうにこちらを見ているのを、帝人は変なところで鈍い人だなぁと思った。
「それでも僕はこうして貴方と会って話をしている。・・・ほら、充分甘やかしてるでしょう？」
紅い眸が瞠られた。
帝人が楽しげに観察をしていると、さっと目元を赤らめ彼は顔を逸らす。
どうやらやっと自覚したらしい。
帝人はもうおかしくてたまらなかった。
「・・・・・・そんなに笑わなくったっていいじゃない」
「ふふ、折原君ってばほんと大人っぽいんだが子供なんだかわかんない」
ころころと笑い続ける帝人に、ぽつりと「君だけにだよ」と臨也は呟いたがその言葉は帝人には聞こえなかった。
しかしすぐに復活するのが折原臨也という人間で。
「じゃあ、甘やかしついでに名前呼びしてもいいじゃない」
「そこまでは駄目、です。これでもギリギリのラインなんですよ」
「ギリギリって・・・」
「静雄と幽が本気で僕と貴方を引き離すか離さないかのラインです」
あの子たちの本気は幾ら折原君でも厄介ですよ。
蒼い眸を煌めかせてそう囁く帝人に、臨也は見惚れながら「本当にあの脳筋と血を繋がってるなんて信じられない」とぼやく。
「・・・でもまあ、弟にはなれなくても、他人の俺は法的にも世間的にも帝人ちゃんの隣に立つ資格があるからいいかな」
帝人は応えずただ笑った。
臨也の手が一瞬ためらい、しかしすぐに帝人へと伸ばされるが、触れる手前でびりびりと校舎を震わせる怒声と殺気がそれを遮った。
「いーざーやー！！！」
「あ、」
「げっ・・・・静ちゃん空気読めよ」
「てんめえぇぇぇ！！姉貴に近づくんじゃねぇって言ってんだろうがよぉぉぉぉ！！」
言葉と共に振りかざされた教卓。
しかし帝人がそれを認識する前に後ろから腕を引かれ、臨也から離された。
帝人が振り返ると、そこにはもう一人の弟が相変わらずの無表情で立っていた。
「幽」
「危ないからこっち」
「でも、折原君が」
「あの人は平気。姉さんが心配することはないよ」
幽の言葉に、帝人が先ほどの立ち位置に目を向けると、成程確かに臨也は臨也で教卓を避け、しかもいつの間にか取り出したナイフで静雄に応戦していた。
「うーん、ナイフと教卓ではどちらが殺傷能力高いんでしょうねぇ」
「どっちも当たらなきゃ大丈夫でしょ」
「それは、そうですけど。・・・・幽、もしかして機嫌悪いですか？」
「・・・・・・・・・・・・・別に」
「別にと言うわりには間がありすぎです。何かあったんですか？先生に怒られたとか？あ、もしかして調理実習のプレゼント食べ過ぎましたか？実は先程幽にって女の子達に持たされたものがあるんですけど、お腹いっぱいなら明日のおやつにしましょうか。１日ぐらい置いても平気だと思いますし」
「・・・・色々と誤解があるようだけど、とりあえず姉さん、俺もう子供じゃないよ」
「子供扱いじゃないですよ。姉として弟を心配してるだけです」
「・・・嬉しいけど、複雑だよ」
はあっとため息を吐く仕草に、遠いところで悲鳴が上がる。
俗に言う黄色い悲鳴だ。
（うーん、うちの弟はほんと人気者だ）
弟２人が可愛くてしょうがない帝人にとって、その事実は誇らしい。
姉馬鹿でもいい。だって可愛いんだもの。
帝人がにこにこと笑うと、幽も首を傾げながらも少しだけ口元を綻ばせる。
ほわほわとした空気が２人を包む中、戦争を終えた（というか逃げられた）もう一人の弟が呆れた顔をしながら近づいてきた。
「２人して、何見つめ合ってんだよ」
呆れていても僅かに滲むやきもちにめざとく気付いた幽は、「羨ましい？」と帝人を背後から抱きしめる。
「ばっ、お前学校で姉貴にくっつくな！」
「何で？」
「何でって・・・！」
「まあまあ、いいじゃないですか。何だったら静雄もくっつきますか？」
「はっ？！」
作品名：あいらぶまいふぁみりー！ 作家名：いの