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かみさまのとり。

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たちのぼる煮炊きの煙は夕闇の空へ消えてゆく。美味しそうな匂いが漂い始める中、ワユは一人うろうろと駐屯地をさまよっていた。目指す人の姿を探して視線はあちらこちらと動き回る。
 黄昏時ともあってなかなか見つからないのは何も目が利かないせいだけじゃない。ややあって見つけた人影に向かって走りだした。
「やっと見つけた!」
 探し出した相手はほんの少し驚いたものの、別段不機嫌になることもなく、むしろ仕方ないなぁくらいの顔になった。初めて話しかけた時からはかなりの進歩だ。最近は一緒に戦ってくれるようになったのだから。
「探したよ!鴉王。あんた黒くて全然見つかんない」
「ひどい言い様だな」
「もうすぐご飯だってのに列から外れるのが悪いんじゃない」
 ワユは鴉王の許しもなくさっさと隣りに座り込む。
「昨日もご飯の時いなかったけどなんで?」
「俺がいたら飯が不味くなる奴等がいるからな」
 鷹や獣牙のものたちがそうなのであろう。軍の中のラグズたちのなかでも鴉は浮いた存在だった。いや、浮いているのではない、味方の軍勢にあっても鴉だけは敵なのだと見られていた。
 ラグズたちのなかで何があったかワユは知らないし聞いてみようとも思わない。目の前に在るものしか信じないからだ。
 裏切りものだと言う。しかし裏切りものに見えないのだとワユは思う。だからワユは鴉王のセリフに、
「そうなんだ」
 とだけ返した。
 鴉王のいらえは無くてしばらく二人で薄暮のなかせわしなく動き回る人々を見ていた。



「羽根?なんだってそんなもの欲しがるんだ?」
 夕日が沈み、残照の残るなか、突然のワユの願いに鴉王はすっ頓狂な声をあげた。
「お守りにするの」 と続けたワユに鴉王はますます顔を歪めて笑った。
「裏切りだ策謀だなんだといわれの悪い鴉の羽根なんざ護符になるかよ。まぁ悪名高い鴉の王だ、誰かに呪いをかけるにゃてきめんかもしれんがお前はそういうたまには見えんがね」
 刀をひとつ信じて大陸を渡る女剣士のすることじゃない。もちろんワユも頷いて、
「呪いなんてまだるっこしい。そんなのやるより、たたっ切れば済む」
 と言った。
 ぶっそうな事をサラリと言うあたりグレイル傭兵団の人間だ。実際呪いのような後ろ向きで実効性の薄いものなど当てになるはずがない。もし効いたとしても「気がすまないじゃないの」と言う。
作品名:かみさまのとり。 作家名:はましお