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かみさまのとり。

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「じゃあどんな効能があるんだよ。よっぽど鷺のほうが有り難みがあるだろうに」
 リュシオンにたのんでやろうか?と鴉王が尋ねて来るのでワユはブンブンと頭をふった。
「ううん。あたしは鴉王、あんたの羽根が欲しいんだ」
 その夜の闇より青い美しい羽根を。
 本気で言ってるらしいと思った鴉王は仕方ないと自らの翼から一枚、そろそろ生え変わりそうな羽根を抜き取った。根元の産毛はふかふかと柔らかで先になるにつれシャープな張りのある羽根は大鴉の羽根にふさわしく濡れたように美しい。
 差し出された羽根を受け取り、よほどうれしいのかワユが満面の笑みを浮かべるのに鴉王は溜め息を着いた。
「お前も大概物好きだな」
 そんな真っ黒い羽根なんざもらったところで何がうれしいのやら。と言ったらワユは不思議そうな顔で鴉王を見て来た。
「鴉は女神の鳥なんだよ」
 ワユの言葉に鴉王の顔に穴が開いたようになる。
 鴉とは裏切りの象徴だと。そんなの耳がタコになるほど聞いて来たし、いまさら面と向かって言われたくらいで傷付くかわいい性格じゃない。しかし今まで聞いたこともないセリフに、鴉王は呆けた。むしろ聞きまちがえじゃないだろうか。
「そいつはまた、壮絶な冗談だな」
 やっとのことで絞りだした言葉には抑揚が無い。あまりにも突飛なセリフ過ぎて頭が付いて行かないのだ。
「あたしの住んでた村、そりゃあド田舎なんだけどね。昔から女神様の遣いは真っ黒い鳥だって繰り返し聞かされてたんだ。」
 あまりにも眩しい女神のお側に居続けて、白い翼はやがて黒く染まったのだ。これでもう女神の炎に焼かれることもなく仕えることが出来ると黒色に染まった鳥は満足してより一層勤めに励んだと言われている。黒鳥は、女神と人々をつなぐ伝令だったのだ。
 その翼は一日に大陸の半分を飛んだと言う。
「鴉王を初めて見た時、きっと女神の鳥はあんたみたいな姿をしていたんだろうと思ったよ」
 まさかそんな夢物語など信じてはいないが、黒い翼は私にとっては畏敬の存在なのだ。
 手にした黒い羽根を掲げ、これは飾りにして肌身離さず持ってゆく。と言うワユの目は限り無く真剣だ。
「ありがとう鴉王」
 鴉王が頷く前に、遠くで当番の男が皆に向かって食事だと叫んだ。
「行こう、鴉王。早くしないと大将がみんな食べちゃう」
作品名:かみさまのとり。 作家名:はましお