ぶりたにあ・えんじぇう☆★
2.臨也+帝人+新羅
「帝人君、美味しい?」
よもや、こんな元同級生のふやけきった表情を見られる日が来ようとは。
感慨深いのか不気味なのか判別が付かず、岸谷新羅は眼前の光景を直視出来ず、視線を左右に流していた。
休日。
静雄が朝から仕事である、と言う情報を聴き付けた臨也は、意気揚々と岸谷家を訪れ、断固として反対するセルティを振り切り、帝人を外へと連れ出した。
憤慨するセルティを宥め、「僕が臨也の奇行をなんとか防ぐから!」、と生贄を買って出た新羅は既に疲れきっている。
本当であれば、丸1日用事が無く互いにフリーであった為、セルティと帝人と3人で、弁当を持って散歩にでも行こうと考えていたのだ。
穏やかな日差しの下で、愛する妖精と、可愛らしい少年の、心温まる触れ合い、を間近で眺められる幸せ、プライスレス。
お金で買えない価値ある休日を満喫する筈であった新羅の計画は、この傍迷惑な腐れ縁によって見事ぶち壊されたのである。
何が悲しくて大の男2人で幼児を連れ回さねばならない。周囲から注がれる好奇の眼差しにうんざりしてきた頃だ。
昼下がりの公園と言えば、お子様連れの母親の溜まり場である。
和やかな空気で井戸端会議が展開されるその場所で、黒いコートを纏ってだらしない笑みを浮かべる顔だけは良い男と、聊か実年齢よりも若く見られる、白衣を来た男、プラス、子供。
一体どう言う関係なのと、突き刺さる視線を意に介した風も無く(確実に気付いている筈なのに、彼にとってはどうでも良い事でしかないのか)、その視線は子供に向けられていた。
「うん、おいしい!」
天使の笑顔で答える子供は、本当に愛らしい。
特に子供が好きと言う訳では無いのだが、相手である幼児がセルティの可愛がっている弟分の帝人、の退行した姿であるので、新羅も傾ける愛情が発生する。
確かに、容姿は平凡で、何所にでもいそうな幼児なのだが、笑った顔に人を和ませる力でもあるのか、目の前の悪に染まりきった碌でも無い男を筆頭として、骨抜きである。
臨也の買い与えた苺のソフトクリームを美味しそうに舐める帝人は、元の愛らしさに加え、幸せそうな雰囲気を纏っていた。
高校生の帝人も苺が好きだったようだが、輪を掛けて、幼児帝人は苺、そして甘いものが好きなようである。
蕩けそうな満面の笑みでソフトクリームを食べる帝人、の様子を蕩け落ちそうな笑みで見遣って写メる不審者。
新羅は呆れたように溜息を吐きつつも、後々セルティの為に写メを送って貰おうと思ったのだった。
そして、事は帝人がソフトクリームを半分程食べ終えた頃に起こった。
幸せそうに頬張る帝人は、自身の口の周りがクリームだらけになっている事に気付いていない。
若しくは気付いているが、放置しているのかもしれない。
微笑ましい様子に、拭ってやろうと新羅がポケットのハンカチを探っている、と。
「付いてるよ、帝人君。」
べろり、と。
あろう事か、臨也は舐めたのである、帝人の頬を。
その上、1度では飽き足らず、舌は次第に怪しい意図を以て下降し始めた。
とうとう、唇の端にまで到達する。
きょとん、と臨也を見上げる帝人は、何をされているのか理解出来ていない。
「いざにいちゃ、どうしたの?」
ことり、と首を傾げて臨也を見る帝人の瞳にあるのは、純粋な疑問であり、嫌悪感や不快感は全く宿っていない。
普段、邪険にされ鬱陶しがられ、セクハラだとボールペンを突き付けられる臨也には、好機としか思えなかった。
どうせこのようなチャンスがこの先来るなんて分からない、ならば何も分からない幼児に今から植え付けてしまえば戻った時の帝人にも何らかの変化があっても良いのではないか!
都合の良い解釈で己を奮い立たせる臨也は、目を眇めて優し表情を作ると、そっと帝人のまろい頬に手を添えた。
その表情は、甘く艶やかに、女性であれば一発で落とせてしまえそうな、魅惑の笑みだった。
やはり状況が分からない帝人は、臨也の名を呼んで事の次第を問うている。
距離が、縮まって行く。
あと数cmで重なってしまうかに、思えた時。
「君は一体何をやらかすつもりなんだい!?」
臨也の暴挙に固まっていた新羅は、間一髪で臨也のファー付きフードを引っ張ると力一杯後ろに引いた。
首は閉まらないものの、突然後方に引かれた事で身体のバランスを崩し、帝人から手が離れてしまった。
「ちょっと、新羅!何すんだよ!!」
「それ僕の台詞だから!君にペドの気があったなんて知らなかったよいや知りたく無かったしそんな知り合いの性癖なんて!!」
「冗談言うなよ。確かに人類皆愛してるから子供だって人としては愛せるけど、帝人君と同列にしないで貰いたいね!」
フンッ、と堂々と威張る臨也に頭を抱える。
まさか自分がこんな常識を重んじるキャラだなどとは思わなかったと、新羅は臨也の襟を掴んで揺さぶった。
「そう言う問題じゃないだろ!?君の今の行動は立派な性的虐待に分類されるよ!」
「ふざけんな!俺が虐待なんてする筈ないだろ帝人君に!愛でて可愛がって俺しか見えないようにする位ならやるかもだけどな!」
駄目だコイツ、もう手遅れだ。
新羅は肩を落とすと、臨也から手を離した。
全く、と、襟を正した臨也は、一転して笑顔になると、心配そうに成り行きを見守っていた帝人の許に戻って行った。
一応こんなでも友人だし、改心の兆しがあるのならと、情けで止めていた親指で、新羅はボタンを躊躇無しに押した。
今頃、携帯の画面には"送信完了"の文字が表示されている事だろう。
さて、先程の急接近の画像を見た都市伝説と喧嘩人形が駆け付けるまでどれ位だろうと、新羅は遠い目をして缶コーヒーのプルタブを上げた。
作品名:ぶりたにあ・えんじぇう☆★ 作家名:Kake-rA