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【ヘタリア】 兄さんが消えない理由 ドイツ騎士団篇

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「はい・・・。あなた様が騎士団を去る時に置いておかれた剣だと伝わっております。
私も見たのは初めてですが・・・・。間違いございませんか?」

「ああ・・・。俺の剣だ・・・。別れる時にヴァルターに渡した・・・・。」

大司教は静かに礼をするとギルベルトの前にひざまづいた。

「我が友、我が祖国、我が騎士団の具現たるギルベルト。
祖先に変わって、お預かりしたものをお返しいたします。」

「ああ・・・・。確かに受け取った。」

ギルベルトが大司教の肩に手をかけておこす。

「どうか立ってくれ・・・・。俺はもう「騎士団」でも「祖国」でもねえ。ただの「ギルベルト」だ。長い年月、剣を預かってくれて礼を言う。」


「これで・・・・わが祖先の予言は果たされましたな・・・・。」

「ありがとう・・・・ヨーハン・・・・いや、ヨハン・・・。」

「でも・・・どうして・・・今、兄さんに剣を返すんだ・・?あ、いや、すまない。」

つい疑問が口にでてしまった。

「今、ギルベルト殿にとって、この剣が必要だからですよ。」

「兄さんに剣が必要・・・・?」

もう、戦争・・・いや、剣で戦うことなど17世紀からないというのに・・・。

「ドイツ殿が生まれて、ギルベルト殿は国でなくなった。」

ルートヴィッヒはぎくりとする。
それはいつもルートヴィッヒの心の中にとげのようにささっている。

「しかし、大戦の後、ギルベルト殿は新たな「国」としてあちらに行かれた・・・。」

大司教はまっすぐにルートヴィッヒを見つめる。

「そして、今ドイツは統一がなされた。あなたは兄上が消えてしまうのではないかといつもご心配しておられる。」
「・・・・!!」

「それで、私どものところへ、要請を出されたのでしょう?
もし、兄上が書いた日記などがあれば渡してほしい・・・などと・・・回りくどい事を。」

ルートヴィッヒが真っ赤になった。

確かに兄さんに消えて欲しくなくて、ありとあらゆるところに手紙を出した。
兄さんに関することすべてを集めて、兄さんをこの世につなぎ止めたい。
兄さんがここに残ってくれるのなら、俺はなんでもやる。

東から帰ってきた兄を見て、誓ったのだ。
消えていく国は沢山ある。
しかし、兄さんを消させはしない。


「でも、どうして今頃・・・・。剣を返すのなら、今でなくてもいいはず・・・・。」

司教たちがまっすぐにギルベルトを見つめる。

「我が騎士団に伝えられている掟がございます。38代の総長が始めたことではありますが。」


「わが騎士団の総長、および司教となったものは、かならずその任期中に、一度はあなた様にお会いすることが義務となっております。」

「俺は・・・・・会ったことなんてないぞ・・・・。騎士団でなくなってから・・・!!」

「皆が掟を守っているわけではないのです。あなた様の「声」が聞こえたものだけがお会いしに行っております。」

「俺の声・・?」

「はい。あなた様の祈り・・・・。たまにですが、あなた様の神への祈りが届く時があります。たいていは、教会で祈りをささげているときですが、あなた様の心が我らに伝わってくるのです。」

「俺の・・心?」
「なんと申しましょうか・・・・・あなた様の怒りや苦しみ、民を助けたいと願う心・・・・・・。私が感じたというか・・聞いたと言っていいでしょうな。私が最初に聞いたのは、あなた様が仲間を助けてくれ、と神に祈る声でした。
それからですよ。私があなた様にお会いしようと決心したのは。」

「俺の…祈る声・・・・お前たちに届いている・・・・?」

「はい。歴代の総長や、司教・・・・・あなた様の声を聞いたものは記録に残しておりますよ。ごらんになりますか?」

「いや・・・・・いい・・・・・。」

(そんなの・・・・・俺の祈りが届いているなんて・・・・。
「騎士団」に届いている・・・?そんなことが・・・・。)

「この剣を今お返しするのは、我ら・・・・、正直、反対するものもおります。
ただ、あなた様を「ドイツ騎士団」として認めているものがいる、という証です。
あなた様がもはや騎士団でないのなら、新たな存在が生まれてもよろしいはず。しかし、そういう存在は生まれなかった。神があなた様を「騎士団」としてお産みになった。
そのきずなは消えたのかもしれません。
しかし、わたしには、あなたの祈りの声が聞こえる・・・・・。
これは、何を示すのでしょう?ギルベルト殿。」

「・・・・俺には・・・・・わからない・・・・。」

「わたしにもわかりはしません。しかし、あなた様がここにいる限り、あなたの声が聞こえる限り、私はあなたを「我らの具現」として認めたい。
騎士団として正式にあなたを受け入れられなくとも・・・・・我らはあなたを認めたい。」

「・・・・・・・・・・・・。俺は・・・・・・。」

ギルベルトの顔がゆがむ。
心に騎士団として過ごした日々が浮かぶ。
戦いの日々、涙でぬれての祈り、そして、分かたれたあの日・・・・・・・。

「俺を・・・忘れないで・・くれるのか・・・・・。」

「はい。あなた様の声をお聞きして、あなた様の姿を目にしている限り。」

「それは・・・だって・・・・・騎士団の中でもお前たちだけなんだろう・・・?
困らないか・・その・・・お前たちが・・・・・。」

大司教はふっと笑う。
それは懐かしいクロンベルク一族のはにかんだ笑顔。
子孫である大司教も、またクロンベルクの一族なのだとわかる。

「わたしの一族は、もうあなた様の呪いにでもかけられておるのでしょう。
あなたの元へ帰りたいと願うのは、カールやヨーハンだけではないのです。
どんなに今の騎士団に反対されても、わたしはここに来ざるをえなかったのですよ。
それを・・この思い・・・・・・「祖国」に対する思いと言えませんか?」

「祖国・・・・・。」

「何があっても忘れられない。何処にいても帰りたいと思う・・・・。
きっとわたしとわたしの一族にとって、あなた様がそうなのでしょう・・・・。
わたしはずっと考えてきましたよ。ギルベルト殿。
あなたの声が聞こえるまで、あなたの存在すら半信半疑でした。
あなたの声を聞いた時から、数十年。私はこの日を待っておりました。
あなたは今、ここにおられる。」

司教は再びひざまづいた。

「わたし、ヨハン・クロンベルクは、ギルベルト・バイルシュミットに永遠の忠誠を誓い、あなたを「騎士団」として、たたえるものとなり申す。」

「わたくし、カール・バッセンハイムはその誓いの立証者となり申す。」

二人の司教がギルベルトの前にひざまづく。

ギルベルトは心を決めた。

剣を取り、二人の肩に置いて言う。

「我、ギルベルト・バイルシュミットは、そなたたちの盟約と忠誠を受け入れる。」


「立ってくれ・・・・二人とも・・・・・・。」


ギルベルトが二人を抱きしめる。

「ありがとう・・・・・・。俺は消えてもいいと思ってた・・・・。
でも、・・・・・もう少し…ここに居させてもらう・・・。
感謝する・・・・・。」

ルートヴィッヒの目からは涙があふれてくる。

ああ、兄さん!!