【ヘタリア】 兄さんが消えない理由 ドイツ騎士団篇
ギルベルトが不意に老人につかみかかった。
「あの・・・・・クロンベルク・・・・・・なの・・か?」
つかまれながらも老人は平然として答えた。
「覚えておいでですかな。この名前を。」
「ヴァルター・・・・・お前・・・ヴァルター・クロンベルクの・・・!!」
「正確には、わたしの直接の祖先ではありませんが、血族であることは間違いないでしょうな。」
ギルベルトは老人から手を離すとベッドに座りこんだ。
「我が一族はどうしてもあなた様への執着を捨てきれないらしい。
この老人も、あなた様が東から無事に戻られたと聞いて、こうしてまいった次第。
わたしの代であなた様にお渡しすべきものがあると、祖先から伝えられているものがございましてな。
まさか、本当にこのような機会がこようとは・・・・、驚いてはおりますが、これも神のお導きというもの。」
「大司教様。あれをお出ししますか?」
そこへルートヴィッヒがコーヒーの入ったカップを持ってきた。
「もし・・・その・・・さしつかえがなければ、私にもわかるようにご説明願えますか?」
さっきから後ろで聞いてはいたが、なにがなんだかさっぱりわからない。
思い出したのが、「クロンベルク」というのが、兄さんが騎士団だったころ、第38代のドイツ騎士団総長だった男の名前だ。
前代のアルブレヒト・ブランデンブルクがドイツ騎士団を「プロイセン公国」としたのに反発し、分裂した騎士団をまとめて存続させた男。
兄さんが「騎士団」を捨て、プロイセンとなった後、交流はなかったはずだ。
それがどうして今頃?
「・・・・・・・なあ、クロンベルク・・・・。
これも、あいつが予言してたってことなのか?予言の時は今、ってことか?」
「そうです。私も今まで信じようがありませんでしたが、我が祖先は確かに「千里眼
の騎士」であったらしい。」
怪訝な顔のルートヴィッヒを見て、ギルベルトが笑った。
「こいつにもわかるように説明してくれ。いや、俺がするよ。」
ギルベルトは二人の司教にルートヴィッヒが持ってきた飲み物を進める。
「俺が・・・ドイツ騎士団だったのはお前も知ってるよな。ヴェスト。」
「ああ。」
「俺は・・俺が騎士団からプロイセンになる時、もめたんだ。
騎士団とアルブレヒト・ブランデンブルクのとりまきの一団と。
騎士団は騎士団であるべきだって言って、俺がプロイセンになるのを反対したのがヴァルター・クロンベルク。俺の親友だった・・・・・・・・。」
ギルベルトの目が遠い過去を思い出してか、ひずむ。
「クロンベルク・・・・ヴァルターは、いっつも俺とつるんでて・・・。悪さして怒られるのも、狩りをするのも一緒だった・・・・・。
あいつ・・…あいつの大叔父・・・。大叔父も俺のところの騎士だったんだ。
ヨーハン・クロンベルク。ヨーハンは千里眼だった。」
「千里眼?」
「ああ。なんでも見通せて、なんでも・・・その・・・・未来を知ってた。」
「つまり・・・・予言者だった・・ってことか?」
「そうだな。予言なんて明確なものじゃなかったけど、今思えばあいつの言葉は予言だったんだろうな・・・。」
「兄さん、すまないがよくわからない・・・。」
「ああ、ごめん。ええと・・・どこから話そうか・・・・。」
「ヨーハンの父が最初に俺のところに来たクロンベルクだった。
見習いの騎士として、ブランデンブルク公国から来たんだ。
でかい戦争の後でな・・・ペストも流行ってて・・兄弟が多すぎて騎士団に放り出されたカールのもとに、里の城から迎えが来た。
ああ、カールってんだ。最初のクロンベルクは。
カールの兄弟がすべて死んじまったから、カールに後を継げってな。
カールは嫌がったけど仕方なく里の城を継いで・・・・。」
ギルベルトは確認するように、大司教をみる。
大司教はだまってにこりとした。
「数十年後にな、カールは戻ってきた・・・。里の城を長男に継がせて、下の息子のヨーハンを一緒に連れてきた。」
ギルベルトは目を閉じる。
「ああ、覚えてるぜ。あいつ・・・ヨーハンは、七男の七男なんだ。」
「七男の七男・・?」
ルートヴィッヒがきょとんとする。
「七男の七男はなあ・・・・。」
「千里眼だと、伝承で言われております。」
大司教が誇り高く言った。
ギルベルトも笑う。
「あはは!まさか本当に「千里眼」だなんてな!おとぎ話の夢みたいな話だよな!!
言葉だけじゃ、わかんねえだろ?こういうことさ。」
ギルベルトはさっと書いた紙をルートヴィッヒに見せる。
カール・クロンベルク 七男 ドイツ騎士団騎士
↓
ヨーハン・クロンベルク カールの七男 千里眼 ドイツ騎士団騎士
↓
ヴァルター・クロンベルク ヨーハンの弟の孫 第38代ドイツ騎士団総長
↓
↓
ヨハン・クロンベルク大司教 現在のドイツ騎士団大司教
「だいたいこんな感じだ。わかるか?」
「ああ・・・。」
そう言えば、童話だかなにかで読んだことがある・・・。
七男坊の7番目の息子は予言の力を持つ「千里眼」として生まれると・・・・。
「カールは7男坊だった。ヨーハンはカールの7男坊だよ。」
「それで・・・・・・。」
「ヨーハンは俺に言ったんだ。最初は何言ってるのかわからなかったけどな。
あいつの予言は、まるで「詩」かなんかみたいで、よくわかんねえんだよ。寡黙な奴だったから、あんまり説明してくれなかったし・・・・・。
『あなたは近い未来で名を変える。でも、それは未来に何度も起きる。
そのたびに苦しまれるだろうが、それはあなたのための、神の選ばれた道だ』
とか、
『先の世界で、あなたは私の子らに出会う。渡されるものをお受け取りください』っとかよ・・・・私の子らってえのは、今思えば、子孫のことか。」
ギルベルトはしみじみとした様子で大司教を見る。
「我が家にも、ヨーハンの残した手紙が残っておりますよ。
意味は不明な事が多いですが。」
「でな、ヨーハンの弟の孫がヴァルターだ。」
「・・・・・・・で?」
まだ、何もわからないぞ。とルートヴィッヒは心のうちで思う。
「で・・・?で・・・・・なんでお前らはここへ来たんだ?」
若い司教が笑っている。
ギルベルトのこういう屈託のなさは聞いてはいたが、新鮮な驚きだ。
仮にも、昔「わが騎士団」の具現であったのに・・・・。
「私がまいりましたのは、あなた様にお返しするものがございましてな。
バッセンハイム。あれを・・・。」
「はい。大司教様」
若い司教は立ち上がると、部屋のドアの辺りから大きな荷物を持ってきた。
「テーブルをお借りします。」
「え?ああ。どうぞ・・。」
ルートヴィッヒはあわててテーブルのそばからどく。
何重にも厳重に包まれた荷物が解かれていく。
ギルベルトが息をのんで見つめている。
やがて、荷物の布がすべて解かれた。
現れたのは、古びてところどころ錆びた大きな剣。
騎士団を象徴する黒十字の紋が装飾されている。
「・・・・・やっぱり・・・・俺の剣か・・・・。」
作品名:【ヘタリア】 兄さんが消えない理由 ドイツ騎士団篇 作家名:まこ