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Louez notre fondateur. 3

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静帝
帝人くん公務員兼情報屋(ダラーズ創始者)
シズちゃんはトムさんの会社で取り立て屋さん


























210番の番号札をお持ち方の方~という機械音がフロアに響く。

機械音が210番と10番窓口をしきりに催促し、フロアの上部に釣り下げられた電光掲示板の黄色のゾーンには210番が赤く点滅している。

フロアには簡易的なソファーが置かれ、そこに腰掛ける人々の手には様々な色合いの丸い札。

チラリと自分が持つ札にかかれた番号と電光掲示板色合いそして番号を確認し、落胆のため息をつく人々。

これだからお役所は……!と顔にありありと苛立ちの表情を見せながらも待つしか術が無い人々は、手持ちぶさたに携帯を弄りだす。





三分たっただろうか。

未だ電光掲示板は210番を点滅させている。

黄色のゾーンは国民年金を扱う色と、この区役所では分けていた。

年金課の窓口で次の来訪者を待っていた担当の者――――竜ケ峰帝人は視線を待ち合い席に向ける。

年金課って一番端なのどうなのかなぁと帝人は毎回思っているこの区役所の窓口振り分け場所の是非について考える。

ふと、帝人の視界の端に丸い形をした黄色地の番号札を握り締めた杖をつく妙齢の女性が映った。しきりに周囲を気にして窓口を探しているらしい。

受付業務を何千と繰り返してきた年金課担当はすぐさまピンとくる。








「おばあちゃ~ん。年金課はこっちですよ~!」

















終始笑顔で対応され、若いのに大変ねぇとよく言われる年金課担当の青年は、こっそりとため息をつく。

いったい自分は幾つに見えていたのだろうかと。

ため息をついた帝人は、きっと高卒の子ぐらいにしか認識されていないのだろうと、またため息を一つ。

窓口業務でありさらに年金課というこの業務に携わって早一年半が経つが、訪れる人訪れる人皆が妙に優しかったりナメてかかってくるのは、やはりこの顔か。

帝人は手作り弁当を広げつつ、午後の業務に向けてチャージしながら顔をペタペタと触った。

今日は何かありそうだなぁと午後の陽光がバインダー越しから伝わる微睡みの中、帝人は箸を進めた。































近所のスーパーで今日の夕飯の買い物を済ませた帝人は、料理手順を考えていた。

(とりあえずお米たいて、ほうれん草を茹でてお浸し作って、あ、鰹節………うん、あるある。大丈夫、先週安かったからいっぱい買ったんだった。今日はお浸しに使うから明後日はベーコンと卵と一緒に炒めて食べようかなぁ。………だから、今日の献立だって。うーん鮭の切り身買ったから焼いて、和え物としてひじきと豆のやつ出して、あとメインは何にしようかなぁ。塩分濃度低め……低めにしないとやばいよ、最近)

持参のエコバックに入った今日の食材を持ち直し、あーでも無いこーでも無いと思案しながらも帝人の足取りは早い。

予定より多く残業をしてしまい彼が予定していた調理時間は現在大幅な削減に追い込まれていた為だ。

競歩まではいかない速度を維持したまま、帝人は家路を急いだ。














「おかえりなさい」

「おう」

「今日は早いですね。あ、魚焼けるまでもう少しかかるので、先にお風呂入っちゃって下さい」

「なんだ、残業長引いたのか?」

「そうなんです。まぁタイムセールには間に合ったので問題無いんですけど」

「…………」

「今、俺より一人暮らししてないのに完璧主夫出来るようになったよなぁって思いました?」

「思った。俺も自炊してっけど、近所のスーパーの安売り日未だに覚えてねぇのにお前よく覚えてるなぁって」

「静雄さんのは自炊って言いません。現にもう何年も僕の家に食べにくるか、僕が通い妻やってるじゃないですか」

「っか、!……………風呂入ってくる」

「タオル取り込んでないやつ使って下さいね~。(顔紅くしちゃって。通い妻で照れたのかな?あー三十路過ぎても可愛いなぁ)」




高校時代に住んでいたボロアパートから引っ越し、比較的小綺麗なアパート。

帝人の住まうアパートには、もう何年も池袋最強が通ってくる。

以前はケーキなど高校生でも食べれるものを手土産にして現れていた池袋最強は、今や帝人が成人したからと言って晩酌用の缶チューハイを手土産に換えた。

毎回コンビニで買うなんて経済的では無いと豪語する帝人に対し、コンビニで買うからいいんだ!とタバコと一緒にチューハイを買う池袋最強。

そのうち本気で池袋最強の財布を牛耳ってやろうかと帝人が密かに考えているのを彼は知らない。











「ご飯にします?それともお酒にしますか?」

「メシがいい」

「はい。じゃあお茶碗取ってください」

「ん」

「ありがとうございます。いっぱい食べますか?」

「あー……先風呂入ったから何時もより少なくていい」

「わかりました。あ、醤油まだ出してなかった」

「俺が出す」

「すみません。(ほんと、醤油の場所知ってる間柄って世間的に見てどうなんだろう)」




帝人が作った夕飯を、今日あった出来事を話ながら食べる池袋最強。

帝人にとって日常的な光景化してしまったこの夕飯時を町の人が見たら、度胆を抜くだろう。

以前より池袋で喧嘩を売ってはいけない奴として上位に名前が上がっていた平和島静雄は、現在もその地位を保持したままである。

池袋最強、池袋の自動喧嘩人形の名前は健在で、昔に比べれば静雄は力の制御を出来るようになったし沸点も…………まぁそこそこ低くなった。

八年程の付き合いとなる帝人には静雄の変化を感じているが、世間一般の方々から比べれば静雄の力は暴力の証らしい。




キレた静雄に対して常識は通じないが、普段のキレる前の静雄は普通に話す場合いたって、普通である。

共通の友人を介しての鍋パーティーの出会いを始めとして、日常的に帝人と静雄はよく話すようになり、気が付けば寝食を頻繁にかわすような間柄になっていた。

今日も今日とて、二人にとっては日常である夕食が帝人のアパートで行われる。

町にとっては異常な光景かもしれないが、二人にとっては紛れもない日常。

非日常を体現する池袋最強と、日常の一部である一介の公務員の夕食。

本当に彼らにとっては日常。
























そう、昨日までは。

昨日までは、確かに日常が存在し、昨日も静雄と帝人は夕食を――――日常を噛み締めていた。

非日常と日常の二人が織成す日常が、非日常に変わる瞬間は唐突で。















作品名:Louez notre fondateur. 3 作家名:ひじり